厚見玲衣 Plays MOON DANCER &TACHYON

written by Eiji Farner

 

2013年5月18日、33年の時を経て再集結したムーンダンサーと、
同じく32年の時を超えて再集結したタキオンのコンサートが
吉祥寺
ROCK JOINT GBで行われました。

 

第 I 章  吉祥寺幻想

 

この日。GBの長い階段を下りた扉の向こう側に広がった美しき幻想に彩られた空間に足を踏み入れた誰もが、彼らの音楽の持つ魔法を体験し、特別な魔力を持つ楽器のサウンドに魅せられた事でしょう。
おっと。前置きです。
このレポートは筆者が取材を通して見て、感じたそのままをリアルに書き記します。(理由は後述)
つまり「美しき幻想」も「魔法」も「魅せられし魔力」も、御世辞のタグイや大袈裟に美化した比喩ではなくて、あのライヴを体験した誰もが、「そうそう、あった。あった!」と語り合える、“ほんとうの事”なのです。

ライヴは2部構成となっており、前半がムーンダンサー、
後半がタキオンでした。

先ず登場したのはムーンダンサー。

MOON DANCER

Keyboard, Vocal : 厚見玲衣
Guitar, Vocal : 沢村 拓
  Bass, Vocal : 下田展久
Support Drums : 土屋敏寛

今回のライヴを主催し実現させた厚見玲衣さんが1979年にデビューしたバンドがこのムーンダンサーです。
厚見さんの長いキャリアの中のどこのタイミングで厚見玲衣というミュージシャンを知ったかによって、 厚見玲衣といえば
VOWWOW、いやいやカジノドライヴ、やっぱ忌野清志郎バンドでしょ、etc, 人それぞれに想いは異なるでしょう。
そのどれもが強烈な
“STYLE” を確立させているので、これまで封印していたムーンダンサースタイルを初めて体験された方の中には新たな一面としてこの日の演奏を堪能された方も多かったのではないでしょうか。
ですが、あえて。

これこそが、厚見玲衣スタイルだとボクは思っています。

驚くべきことに20歳くらいのデビュー時(当時は厚見 麗)に、すでに確立していたオリジナルスタイルであって、1979年当時も2013年の今現在も、世界中に唯一無二のスタイルです。

山ほど積上げたヴィンテージキーボードの城、それらの機材の一台一台のポテンシャルを極限まで引き出し(←ここ重要!)、凄まじいテクニックとサウンドを伴い縦横無尽に弾きまくりながら。。。。歌う!
他に誰も居ません。
しかもムーンダンサーの楽曲(ソング・ライティング)って、まさしくオリジナルスタイルであって、世界中のどこにも居ない世界観を持つシンガーソングライターなのです。
で、更に更に引き出しがいっぱいあって、VOWWOWがあり、カジノドライヴ、清志郎バンドetc,etc,があり、 Mountain のコピーバンドまである。(笑)

そうしたキャリアの中で、もっとも永い間封印されてきたのが
ムーンダンサーの世界でした。

今回のライヴが実現したことで、
遂にリードヴォーカリスト厚見玲衣が大復活したワケなのです。(祝!)

ムーンダンサーのオリジナルメンバーである沢村さん、下田さんは18才くらいの時に結成したバンド(SIREN!)から厚見さんと活動を共にしてメジャーデビューを果たし、バンドが解散して30年以上経った今も各自が音楽家として活躍されています。
インターネットも携帯電話も無い時代に出会い、集まった高校生が、こんなにも凄いオリジナリティとテクニックを持ってバンドを結成したっていう事も凄いし、34年後の未来に、こうして笑顔で集まれて若き当時の音を再現できるという事も、ほんとうに凄い事だと思うんです。

1979年。ある日、テレビの歌謡曲番組をぼーっと眺めてたら。
お。かっこいいイントロ!って耳を奪われ魅入ったブラウン管に映し出されたのは、少女漫画の王子様のような輝きを放ちハモンドオルガンとシンセサイザーを両手を広げて弾きながら、叫ぶがごとく歌うキーボーディストでした。
曲もグッとくるわギターソロはかっこいいわ。
それはもう、ほんっとうに衝撃的だったんですよ。キーボードの知識がまったくないギター少年が見ても。

で、34年経って、この日のライヴです。

あのときの魅力、魔法のような輝きが
見事なまでに蘇った光景を目の当たりにして、
「ああ。この音楽に出会えて、34年後の未来にこの場所に導かれて、
なんて幸運な人生なんだ!」って、
この日の会場で涙を流していたお客さん達は皆さんきっと
同じ想いだったのではないでしょうか。

同窓会的な懐古の情ではなく、まるで時空を飛び越えたかのような、あまりにもリアルな世界がそこにはありました。
“記憶の中の音” を、当時使用していた楽器を持ち寄りそのままに再現したことも、当時の演奏アレンジを一切簡略化せずに再現したことも、ナニモカモ。
シーケンサー(自動演奏装置)を一切使わず、全て手でアルペジオを弾きながら歌い、更に空いている片手で音を重ねるキーボーディストを他に知らないのですが、「シーケンサー使えばいいじゃん」と思ったそこのアナタ。

甘〜いっ!

今回サポートされたドラマーの土屋さんはヘッドフォンをしていませんでした。
つまりクリック(機械によるテンポが一定なカウント)は使わずに、あの複雑な構成の曲を「生演奏」していたのです。
曲の空気や風景が展開していく中でテンポは微妙に早くなったり、遅くなったりして、その「生々しい」テンポの変化にメンバーが息を合わせながら感情を乗せて演奏していたからこそ、全ての楽曲があのドラマチックな展開になるのです。
伴奏にシーケンサーを持ち込めば、演奏家の描こうとする世界観は機械にセットされたタイム感にあわせなければならないでしょ。

この日のライヴを体験した皆さんも、たぶんこれを読んで頂いて、なぁーるほどっ、だからああまでグッときたのか!ってヒザを叩いているのではないでしょうか。(笑)

 

と。分かったようなレポートを書いてますが。

 

実はボク自身も34年経って、ムーンダンサーの楽曲がレコーディング技術や電子楽器のテクノロジーで作られているのではなく、全て人間の手(メンバーの手足)によって演奏されていたという事を知ったのです。(^^;;
当時の機材では頼れるテクノロジーが今の時代のようには無かったハズですし、人間の手でやるしかなかったのかもしれません。
で、あればこそ、ここまでやろうと考え付いたのも、それをライヴで再現できるテクニックを備えていたことも、凄まじきミュージシャンシップだと思うんです。
しかも。こんなこともできる!って、考えついて人の手で演奏されたアイデアは、今の時代では機械技術である程度似たようにシミュレートされていたとしても、あきらかに「生演奏」のほーがグっとくる!

 

サテそれでは。
そんなリアルな演奏、リアルなサウンドを奏でた
楽器達を見ていきましょう。
先ずは、ステージ幅のナント2/3を埋め尽くしたキーボードのお城。

全景ご覧ください。

 

 

 


 

一台一台を解説していく前に、34年前の機材を取材した
雑誌記事を御覧頂きましょう。

これはボクが34年間読みまくったバイブルみたいな本です。
もはやボロボロで補修セロテープも風化してますが、
中の記事は思春期に隅々まで読みまくり全ページ暗記済みです。
この雑誌で紹介されたムーンダンサー機材の記事は、
ほんとうに衝撃的でした。

  


今にして思えば大手芸能プロダクション所属アーティストですから
それなりに潤沢な資本があったのでしょうが、

「なぁんてお金持ちなバンドなんだ!」
「このキーボードの人、ほんとうに王族の王子なのか!?」

って。(笑)

で。この記事に載っている当時の機材がほぼそのまま、
今回用意されたのです!

   

この “粋な計らい” に、タイヘンワタクシゴトながら、
私的な希望(夢)が、30年の時を超えて、
こっそり実現したワケです。

じーん。

当時の機材を詳細に知っていて、このライヴを見に来られた方は少なかったかもしれません。ですが、誰もがこの日のサウンドを聴けば、この場所に持ち込まれた全ての機材ひとつひとつが意味を持っていた事に気づかれ、こう思ったハズなのです。

「全ての楽器は、使う理由と意味がある。」

 

KORG PE-2000

ムーンダンサーのストリングス系サウンドといえばコレです。

この日、メロトロンが2台も用意されているにもかかわらず、あえて全てのストリングス系サウンドは、この KORG ポリフォニックアンサンブル PE-2000で演奏されました。
ストリングスサウンドのリアリティという点では当然メロトロンのほうがクリオリティが高いのは誰もが知るところですが、あえて。
メロトロンでは「メロトロンの個性が色付けされてしまい、ムーンダンサーのサウンドにならないから。」 だそうです。COOL!

70年代の国産シンセサイザー黎明期に開発されたPE-2000もまた唯一無二のサウンドを持ちます。特に内蔵されているフェイザーによる音の揺らぎは絶品なのです。
シンセサイザーですから多種多様な音色を作り出せるワケですが、その中から「これぞPE-2000だ」というサウンドを選び出し、そのサウンドを楽曲の印象に据えてしまう。

常々、厚見玲衣という音楽家の凄さの一面=「楽器のサウンドと楽曲の世界観を見事にマッチングさせてしまうセンス」に感嘆してきたのですが、実は20歳くらいのデビュー当時、すでにそのスタイルを完成させていたという。

楽器のサウンドに“楽曲”という世界観を与える事こそが「楽器を使いこなす」というほんとうの意味なんだとあらためて学びました。

すでにお気づきでしょうが、ここから始まる全ての楽器解説に、
この理念は共通しています。

 

KORG 800DV

これも国産シンセサイザー黎明期の名器です。
「鏡の中の少女」のイントロでウィーン、ウィーンって音程が上がるあのメロディは、まさに800DVでなければという。

いろいろ試したけど代替えになるシンセは無かった」と、故障のリスクを覚悟でバックアップ用と2台の800DVを用意したのですが。。。案の定、本番当日のリハーサル時点で御機嫌ナナメとなり、本番中に故障してしまいました。

ちなみにPE-2000もバックアップ用と2台用意していたのですが、1台は直前のリハーサル中に故障してしまったのでバックアップで本番を乗り切りました。

故障するリスクの高い国産ヴィンテージシンセサイザーを2台ずつ準備して臨んだことからも、この2台がムーンダンサーの音楽に如何に重要かという事が伺い知れます。

厚見さんといえばミニモーグのイメージが強烈ですが、ムーンダンサーの厚見 麗 といえば、800DVなのです。

 

 

Micromoog Synthesizer

そしてこのマイクロモーグもまたムーンダンサー厚見 麗 のイメージです。
意外に思われる方も多いでょうが、ムーンダンサーのレコーディングではミニモーグはリフのみで、ソロは全てマイクロだったのです。

で、このマイクロモーグを使って「薔薇心中」ライヴバージョンの中間部分で繰り広げられるトランス世界を作り出すのです。
まるでレッドツェッペリンの「胸いっぱいの愛を」中間部のテルミンのようでいて、テルミンよりもエグい。(笑)

昔はこのマイクロモーグにリボンコントローラーをつないでパフォーマンスする事もあったらしいのですが、「リボンだと見た目のパフォーマンスはいいんだけど、マイクロ本体に向かっていろいろ操作した方がツマミをいじれるし、よりエグいことができるから」という理由でリボンコントローラーは封印されたそうです。

ちなみに、これが当時使っていたのと同じリボンコントローラー。
(写真提供:
Voyager's Studio )


上の写真の mini moog 鍵盤の上に置いてある、この棒みたいな部分が
リボンコントローラー。
大根みたいに手に持って、シゴクと音が変化する兵器。
(大根はシゴかないか。)

 

 

 

ここまで使い込んでもらえたら
マイクロモーグもいつ壊れても本望でしょう。

これは無事に壊れなかったけど。 (笑)

 

 

 

NOVATRON 400SM

今回はPE2000にメインストリングスの座を奪われた悲しきノヴァトロンです。
ノヴァトロンはメロトロンの商標が使えなかった一時期の名前で、ノヴァトロンのロゴシールを剥がすと下からメロトロンの文字が。。。
つまり中身はおんなじです。
昔は使ってなかったし、使わないかもしれないけど持って行きましょう!
みたいなノリで持ち込んだら、「哀しみのキャンドル」 の中間部で沢村さんのアコースティックギターに合わせてフルートとストリングスを少し、最後のDギルモアも真っ青のスライドギターソロのバッキングで混声合唱を使ってもらえ。
(笑)

 

Taku Sawamura's Classic Guitar


この曲は34年前はライヴでアコースティックギターに持ち替える術がなくエレキギターで演奏されていたそうなのですが、今の時代は気の利いたスタンドもあるしで、これまたレコード通りにアコースティック(録音時はリュート)に持ち替えながらの演奏は、この曲をより印象深いものとしました。
つまりアコギとノヴァトロンのハーモニーは、進化した2013年ライヴバージョンだったワケです。
誰もがその美しいサウンドで描かれた情景に酔いしれたハズです。

よくあるパターンで、某有名バンドの再結成ライヴに期待胸膨らませて行ったら、いちばん楽しみにしていた代表曲が、ダッサイ再結成ヴァージョンとやらにアレンジされていて、がっかりする事ってありますデショ。

当時のアレンジにアーティスト自身が納得出来てませんでしたっていう主張?(とすると、そのアレンジに惹かれたファンごと否定してるよーなモン?) なのか、歳とって当時の情熱をもはや再現できないのか、時代に流され続けてセンス悪くなったのか(笑)。。。いずれにしても楽曲に惹かれたファンごと、過去の自分を否定しているようにも感じられて、(←個人的主観ですよ。反論受け付けてましぇーん) ライヴ見ながら舌打ちしたことって、ありません?(笑)


ほいじゃ、なんでアコギとノヴァトロンの2013年ライヴヴァージョンは誰が聴いてもグっときちゃったのかと考えるに、答えは「よりレコードの再現に近づいたから。」
33年ぶりに集まったムーンダンサーは、あの頃は機材的に出来なかった部分まで、今なら出来るならば徹底してリアル再現にコダワっていたのです。

で、また想うワケ。

「ああ、思春期に惹かれた音楽を、今も誇りを持って
何も変えずに演奏してくれるバンドを好きになって良かったな。」
って。

出番は少なかったけど、それを確信させてくれて、
黒ノヴァトロン、ありがとう!って。(笑)


あ。

アコギにも、ありがとう!です。

 

 

サテ。
キーボードには興味のないギターファンの皆様、お待たせしましたっ。
沢村 拓さんのストラトキャスターモデルです。ムーンダンサーではストラトです。

Taku Sawamura's Custom Stratocaster

  

ムーンダンサーを隅々まで聴いてきたので、もちろん沢村さんの素晴らしさは 知っているつもりでいましたが、あ・え・て!沢村さんのファンの方からは、何を今更と言われてしまうのを承知の上で、 恥を忍んで声高らかに申し上げます。

こおぉぉぉんなにも、凄いギタリストだとは!!!!!

 

テクニックも感性も音楽性もサウンドもナニモカモが。ほんとうにすごくて素晴らしくって、リハーサル取材中にボクは何度も泣かされてしまいました。
聞き手の琴線に直接触れてくるようなギターなんだけれど、ジミヘンとか厚見さんみたいにグワシって掴みかかってくるんぢゃなくて、優しくそーっとそーっと触れてくるというか。(笑)

そのそーっとが、深いし、鮮明な光を伴って力強いんで、気づいたらツツーって。

全ての楽曲のギターソロの旋律が、美しいまでに起承転結をもって聞き手をフワっと引き込むんで、ぼーっとして聴いてるとツツー。(笑)

 

ボク個人的にはハードロックの Grand Funk Railroad がフェバリットアーティストなだけに、いわゆるブルーノートというかペンタトニックスケールというか、典型的なブルース起源の匂いのするロックギターフレーズにのみグっとくる体質なのですが、そのボクが。
全くと言ってもいいほどにブルースロックの匂いをさせない沢村さんのギターに聴き入り、感情移入してしまうのですから、これはもう大事件なのです。(笑)

ちなみに。

いったいどんなスケール(音階)を使って誰も考えつかないようなドラマチックなメロディを弾いているのか、そーっと近づいて指使いを見てみたら。。。なんと一般的なペンタトニックスケールの中で弾いていたとう。

つまり、スケールとかそういう事じゃなくて、沢村さんの選ぶ音の並び(メロディ)こそが独創的魅力に溢れていたという事だったワケです。

 

ギタースタイルは全く似ていないけれど、ハードロック黄金時代に天才オルガニスト・ジョンロードと組んでブルースロックの匂いをあえて払拭してクラッシック音楽の匂いをまとったハードロックギタリストとして世界を魅了したRブラックモアや、奇才Fマーキュリーと組んでオペラの匂いをまとい独自の音楽的世界観を構築したBメイと通ずるモノを感じるのです。

厚見さんと沢村さんのコンビネーションに。


叫ぶように歌う厚見さんと、ささやくように歌う沢村さんのヴォーカルスタイルは、ある意味で対局のように見えます。

ところがこの御二人がひとたびハモると。

ああまで絶妙な響きを伴い、見事にひとつの情景を映し出すのは、この日のライヴを見た誰もが感じたことでしょう。

沢村さんのまとった空気のカラーが透明に近い白であるならば、この日厚見さんの放射した強烈な“気”は、黒光りするガンメタ。(笑)

相反するようでいて、御二人が並んで放つ白と黒のコントラストの美しさは、赤や青に彩られた色鮮やかなステージ照明の中でも圧倒的な存在でした。

これほどまでに技術も音楽性も相性もピッタリな御二人が、
偶然にも同じ高校の一年先輩と後輩に居て、出会い、
共に同じ道に進み、30余年後に再会しても
そのコンビネーションは変わっていないという。

この日起きた幾多の奇蹟の “はじめの一歩” が何であったのか。

ライヴを見た誰もが知り得たのではないでしょうか。

 

Nobuhisa Shimoda's Fender Precision Bass

   

そして、3人めのムーンダンサー、下田展久さん。
今回のライヴは下田さんの参加なくしては実現しませんでした。
今回、下田さんが使ったベースはムーンダンサー時代に愛用されていた、
あの真っ白いフェンダープレシジョンベースです。
じーん。。。。


  

 

「あの本」 に載っていた写真の、足元に置かれた赤い MXR Dyna Comp は今回もラインブースターとして用いられました。そしてここぞというアクセントにオートワウを使うことで、記憶の中のサウンドは見事に再現されたのです。

「すごいベーシストがK高校に居る!」 という噂を聞いた高校生の厚見さんがスカウト(?)しに行って、後に一学年後輩だった沢村さんが呼び出され(笑)、御3人は出逢ったそうです。
前述3人めと記しましたが、 ほんとうの“はじめの一歩”は下田さんと厚見さんの出会いだったのです。

ムーンダンサーの凝りに凝った楽曲(と、言っても一聴するとそのポップセンスで、ものすごく凝ったアレンジになっているとは感じさせないトコがまた凄い!) は、このメンバーでなければ作り出せなかったということを今回のライヴで再確認したのはボクだけではないハズです。

前述の厚見さんと沢村さんのコーラスに関しても、
そこに下田さんが加わることで、まさしく。

“ムーンダンサーの世界” になるのです。

 

 

 

第 II 章  神 話

 

第1部終幕アラベスクのあまりにも美しい情景と余韻に
暫し浸る為に用意されたかのような“休息”を挿み、
満を持して。

第2部タキオンの登場です

TACHYON

Keyboard, Vocal : 厚見玲衣
Guitar, Vocal : 沢村 拓
     Bass : Gregg Lee
Support Drums : 土屋敏寛

タキオンはムーンダンサー解散後に
厚見さんと沢村さんがアメリカに渡り結成したバンドです。


タキオンとムーンダンサーではドラマーとベーシストが違うのですが、今回のライヴは両バンド共、サポートドラマーは土屋敏寛さんです。

とゆーことは、今回のライヴではベーシストが下田さんからグレッグさんに交代するダケか。。。と思った方が居らしたとすれば、その考えは第2部開演後の一瞬で吹き飛んだハズです。

「Gregg Lee!From TACHYON!」のコールでステージに登場したグレッグさんがハイパーイマジネーションのシンプルな4分音符をボッボッボッっと弾き始めた瞬間に、ガラリと一変した景色に誰もが「ベーシストが変わると、こうもバンドのカラーは変わるのか!」と感じた事でしょう。

つ・ま・り、これって。

いかに下田展久というベーシストが創り上げる世界観が個性的であるかという事の証明であって、それと同時に、いかにグレッグ・リーというベーシストの個性が際立っているか。という事なのです。
つたない表現の文章では書き表せませんが、あの場に居た誰もが確実に景色の変化を感じたハズです。

数多のバンドで数多のベーシストがライヴの途中で交代しても、景色まではそうそう変えることなんて出来ないですから。
特に、他のメンバー(ギタリストやキーボーディスト)が個性的であればあるほどに。


サテ。
そんなタキオンの機材解説です。先ずはコチラ。

Rei Atsumi’s HAMMOND “Chopped” C3 Organ

 

I 章ムーンダンサー機材の解説で、「ハモンドオルガンからだろうが!なんでハモンドの解説がねえんだよ!」と怒ってた方も、
「なんだよ!どう考えても先ずはグレッグリーのベースからだろーが!」と、今、怒ってる方も。(笑)

これまでに語ってないムーンダンサーとタキオンの違いって、わかります?

ムーンダンサーでは幾多のシンセサイザーを縦横無尽に使い分けていた厚見さんが、タキオンではオルガンとピアノしか弾かないのです。

両バンドの中核である厚見さんが、シンセサイジスト(って言葉あるのかな?)の引き出しを封印して、ピアニスト、オルガニストとして、ガイジンのリズム隊と結成したのがタキオンなのです。
(今の時代はガイジンもニホンジンもないけれど、昭和50年代には明確なDNAの差=グルーヴの差があったんです。)

なので、まずはハモンドの解説なのです。

サテ、このハモンドオルガンC3
かつてTHE WHOの武道館公演に貸出したところ、あまりのサウンドの素晴らしさにピート&ロジャーも大感激したというエピソード(実話)は、余りにも有名です。

ですが、もしも。武道館のステージが地下2階にあって、しかも急な階段しか搬入口が無いとなれば、THE WHOスタッフはコッチを借りに来たかもしれません。


Nord Stage EX  9.7 kg

 

ちなみに。リハーサル段階での“簡易”セットはこうでした。



正面一番下の黒いノヴァトロンもハモンドもレスリースピーカーも無し。
でも、これぢゃ、納得いかないデショ。

注) これでも凄い量なんだけど。(笑)


で。やっぱフルセットでいきましょう!って提案したものの、
困ったことに、吉祥寺GB。
長い階段を下りた扉の向こうの空間に。。。
機材を下すエレベーターが無いっ!(爆)

なので。このように。

今回はふたつに分けて、軽量化を図ったのです!

これならわずか120〜130kg
屈強な大人が4人もいれば気軽に移動できます。(滝涙)

今回のライヴが決まった経緯は、すでに先行公開している
“ NORTH MANIAC ” に記述してあります。
メンバーが集まれる。NORTHドラムが手に入った。搬入が階段だけど、
ハモンドはチョップすれば下せる!

NORTH のドラムを手に入れたから演ることにした。」
と楽しそうに言いふらす厚見さんにとっては、
ハモンドは最初から下せるに決まっていたワケです。(笑)

テナワケで。今回は気合い入れて、
いつもは付けている透明カバーも外しました!


おっと! あまりにもかっこよく、
NORTH
が写り込んでしまっています。

NORTHの解説はひとまず置いておいて、
ハモンドオルガン周辺を。

 

ハモンドの奥にはバックライトに照らされたレスリースピーカーが浮かび上がっています。
その隣のmini moog の下には、KORG M1、更にその下には黒い黒いノヴァトロンがセットされています。
2段あるハモンドオルガンの下段鍵盤はMIDI対応に改造されており、KORG M1の音源はオルガンの下段鍵盤を弾いて鳴らしていました。
つまりM1は音源用として置かれていただけでM1の鍵盤には一度も触れなかったのです。アンコールで演奏された「美しき愛の掟」で、ハモンドオルガンを弾いているのに鐘の音やシンセサイザーサウンドが鳴っていたのは、こういうシカケがあったのです。
2分割して運べるようにチョップして、MIDIがコントロールできるように鍵盤改造して、更に極上の歪みを得られるようにオルガン内部の回路も改造してあり。

このC3。実はトテツモないオルガンなのです。


THE WHO もびっくり。(笑)

 

シンセサイジニストとしての引き出しを封印したのに、 我々観客は 「さっきからオルガンしか弾かないな。 音色のバラエティが減ったな。」 とは、 誰も感じなかったハズなのです。

なぜなら「中近東幻想」のソロパートでは、ゆすったり蹴り飛ばしたりして内蔵リヴァーブをガシャンガシャンするわ、電源スイッチをOFFにしてトーンホイール音源を回しているモーターの回転を落として、まるでストラトキャスターのアームダウンのようにグゥ〜ンって音程を落としておいて、すかさず電源ONにしてモーター回転数を復帰させることで、ウィ〜ンって音程が上がってくるように操作したり、そこにレスリースピーカーの回転を早めたり遅めたり細かく操作しながら、ヴォリュームペダルを使って音量を上げたり下げたり。

すなわち、「音程」と「音量」と「音の広がり」を上下・左右・前後に自在に操ってしまう厚見さんの弾くオルガンは、どんなシンセサイザーよりも多彩なサウンドを放ち、多彩な音の世界を創り出すのです。なのでシンセサイザーを封印している事に誰も違和感を感じなかったワケ。

まるで、ストラトキャスターを使ってのフィードバック奏法やトレモロアームを駆使してギターの弾き方・サウンドの概念までも変えてしまった天才・ジミヘンドリックスのようです。そういうスタイルならばキースエマーソンこそがオリジネーター ではないかという声が聞こえてきそうですが、

厚見玲衣は歌うので“オルガン界のジミヘン”なのです。

 

そして、シンセサイザーを封印した厚見さんに応えるが如く、
沢村さんもまた、さりげなくタキオンモードに。。。
ムーンダンサーはストラト。タキオンはレスポールです。

これは、沢村さんがタキオン結成時に手に入れ、
大切に使い続けてきたGibsonレスポールです。

Gibson Les Paul

   

まるでゴールドトップのようなカラーですが、
実はナチュラルが飴色に焼けてこの色になったのです。

ムーンダンサーでの歪んだストラトによるエッジの効いた
バッキングにもグッときたボクですが、
このレスポールで奏でられる、とろけるようなサウンドには、
リハーサルを通じ何度泣かされたことか。(笑)

今回の取材中に目撃した、この山のように積み上げられた
ハードケースの丘を御覧ください。

この中から。

ボロボロになったハードケースを手に取って
パカって開けたらタキオンのレスポールが。
ボロボロになったハードケースをパカって開けたら
ムーンダンサーの白いプレべが。

そりゃもう見ただけで泣きそうになったんですけど、
その楽器から記憶の中のサウンドが。。。

しかも記憶よりも良い音で。。。

そりゃ、記憶がとろけて涙も落ちますって。(笑)

 

そ・し・て!満を持して!Mr,タキオン、グレッグ・リーさんの登場です。

華やかなオーラをまとい、
キーボードに占領された狭いステージ上を、文字通りステージ狭しと(笑)
軽やかなステップで動き回る姿こそ、
まさしくタキオンのグレッグ・リーです!

厚見さん、沢村さん、下田さん、グレッグさん、皆さんが長い音楽活動の中でこれまでに封印されてきた“若き日のスタイル”を解き放ったこの日、かつてタキオンを見た事があるであろうお客さんが、グレッグさんが「あのステップ」を踏んだ瞬間に歓声をあげられて大きな拍手をされている姿は感動的でした。

音楽というタイムマシンが時空を飛び越えるには、
演奏技術やアレンジや楽器のサウンドだけではないという事を
グレッグさんとそのお客さんから教わりました。

実は。。。リハーサルではしきりに 「もう“いい歳”だから、恥ずかしいよぉ。」と躊躇されていたんですが。(笑) ぜったい、昔のタキオンを知るお客さんが来てますから、 ぜったい喜びますよって、説得したりもしたんですが。。。

←ノンステップのリハ

 

もうね、一曲めから、説得まったく不要のステップ全開で。(爆!)


恥ずかしがってたぢゃないですかっ!
ポーズだったんですかっ!いい歳して〜 って。(笑)

そんなグレッグさんの優しさ、繊細さ、明るさが
タキオンの音楽を彩っていたのです。

Gregg Lee’s Fodera 6 Strings Bass & Moon Jazz Bass

  


タキオン時代に使っていた moog タウラスは今回は諸事情(※)
で出番が無かったのですが、
Fodera 6弦ベースにセットされたシンセサイザーシステムにより
凄まじき重低音は見事に再現されました。


参考写真:moog Taurus

これがタキオン時代にグレッグさんが愛用されたタウラス。
(現在は厚見玲衣氏所有。)

※ これ足元に置いたら、諸事情で狭〜いステージ上で、
グレッグさんは直立不動で居るしかないという。。。
つ・ま・り。タウラスとるか、ステップとるか。(笑)




Fodera 6弦ベースにセットされたベースシンセを駆使しての「ガイガーカウンター」は、 タキオンスタイルを象徴する名演でした。

曲の中盤で繰り広げられた長いベースソロを静かに盛り上げるピアノ伴奏は、やがてどちらからともなく互いの繰り出す音の景観に響応し圧巻のコール&レスポンスと昇華していったのです。

「さすがプロフェッショナル。30年以上経っているのに、息がぴったりだなぁ。」などと最初は思っていたのですが、すぐに “そんな平凡なことではない” と気づかされました。
ああ、この御2人は、お互いのプレイや音楽観が大好きで、30年以上経った今でも、お互いにリスペクトし合っているんだと。

よくあるベースvsピアノのバトルなどではないし、単なるベースソロの伴奏でもない。
その場の即興で、これほどまでお互いの信条(心情) を思い計る人と人の関係。
そしてそのシーンを見ている観客に、そのことを無言で伝えられるって、演奏技術と音楽知識だけではぜったいにできません。


ボクの人生で見てきた幾多のライヴ中で最も美しく、
生涯記憶に残る最っ高のベースソロでした。


そしてここでようやく気づいた事。

ムーンダンサーが記憶の音を再現し、アルバムの演奏をリアルに再現したのに対し、タキオンの演奏はアルバムの曲にライヴならではの即興を加え、凄まじきライヴヴァージョンとして繰り広げられていたのです。
このアプローチの違いもまた、両バンドのコントラストを際立たせ、この日集まった観客を魅了していたのです。

ムーンダンサーとタキオン、どっちが良かったか。

終演後、スタッフ側に居たボクの問い掛けに対し、
両バンドの素晴らしさを体験した知人の誰もが、
その答えを持てずこう答えていました。

 

「比べられないよ!どっちも素晴らしかったから!」

 

ライヴアルバムがカッコいいバンドといえば、すぐに思いつくのが
Deep Purple、Free、Mountain、Grand Funk
。。。
歴史に刻まれし名盤を残した彼らと同じニオイが、タキオンからします。

 

つ・ま・り。ライヴアルバムが必要なバンドだと、

ここで声を大にして訴えたいっ!(^^) 


あ。そーいえば。 第 II 部のラストを飾った、「 It Ended as Friends 」 (哀しみの友人達 ? )は、タキオンの未発表曲でした。
これまでに厚見さんの参加したライヴで数回のみ披露されたこの曲は、熱心なファンの間では“幻の名曲”として語り継がれてきました。

この日も、おそらく初めてこの曲を聴いたであろう多くの観客が、この曲の持つ圧倒的な迫力に息を呑み、美しさに心を奪われ、ドラマチックに展開する曲の世界観の中で気が付いたら涙を流していました。

 

あまりにも美しい余韻を残した It Ended as Friends
歴史に残るべき名曲は、歴史に語り継がれる名演で
遂に披露されたのです。

ほとんどの観客が初めて聞いた曲にもかかわらず、
曲の終演後、一瞬の静寂を置いて嵐のように沸き起こった拍手喝采は、
この曲の持つ特別な力を雄弁に物語る感動的なシーンでした。

 

誰も居なくなったステージ上で、この曲を弾き終えた厚見玲衣氏

 

この曲を聴ける場所に導かれたこと、
この曲の生演奏を体験できる時代に生まれてこれて、ほんとうによかった!

と、

心からそう思ったのはボクだけではないと思ってます。

 

 

第 III 章  It Reunion as Friends

 

鳴り止まない喝采の中、アンコールに登場したのは、
この日の出演者全員でした。
ベースはグレッグさん。下田さんはぬわんと、メロトロン担当です。

これがその、白いメロトロン。

MELLOTRON M400S

つまり。前述の黒いノヴァトロンと、白いメロトロンの2台が、
エレベーターの無いGBへ。
それぞれ1曲ずつしか使わないのに持ち込まれたのです!(爆)

どうしても並べてみたかったので、

V字に並べてみたりして。(笑)



http://grandfunk-maniac.org/mellotron/index

この日、1曲だけ演奏されたアンコール曲は、ザ・タイガースの「美しき愛の掟」でした。
これはムーンダンサーの未発表曲か!?と思わせてしまうような芸術的なアレンジが施されたこの曲もまた、 この日最も印象に残る名演でした。

M1音源をMIDI改造したハモンドオルガン下段鍵盤で鳴らし、シーケンサーを使わずに弾きながら、歌う。

まさに、The 厚見玲衣 STYLE

そこに下田さんが美しいメロトロンを重ね、
沢村さんの弾く美しきスライドギターが鳴り響き。。。

まさに時空を超える魔法の扉が開いて、遂に。

世界一美しい音色を持つ、この楽器を。。。

mini moog

 



世界最高に美しく奏でるシンセサイジスト、
厚見玲衣氏が。。。

 

皆さん、シンセサイザーの音で、泣いたことってあります?

 

ボクはあります。

 

 

第 IV 章  NORTH MANIAC II

 

これが。巷で噂の NORTH です。

 


明るいトコで見るとこうなっています。


ズドドド ドゥン!



この日の為に何ヶ月もかけて入念に調整を重ねてきたこの NORTH
先行公開した
NORTH MANIAC を読んで駆けつけた
会場を埋め尽くすノースファンの広がりきった期待感の裾に応え、
凄まじいサウンドを放出しました。

そのサウンドを目の当たりにしたノースファンの

ポカンと開いた口が。まるで。。。こんなカンジに。(笑)





その光景に、心の中でガッツポーズした厚見さんの心情は、
この日の プレイに表れ。





今回のライヴをサポートし、
複雑なリズムで構築された楽曲の中で、
この癖のあるNORTHドラムを見事に鳴らしたのは、
ドラマーの土屋敏寛さん。

ズドドド ドゥン!

 

そしてこの日使ったスネアは、1974年製 Ludwig Super Sensitive 410。

 

NORTHの放つ深いサウンドの中に埋もれる事なくブリリアントな輝きを放ったこのスネアは極限までハイピッチにチューニングすることでムーンダンサーとタキオンの楽曲に強烈なアクセントを与えていました。

スネアのピッチを低くチューニングすることを Heavy だと考える今時の風潮(定石 ?)を鵜呑みにしてしまえば、この日観客を魅了した凄まじい迫力を持ったドラムサウンドを説明する事はできないでしょう。
ジョンボーナムもイアンペイスもドンブリュワーもスネアはハイピッチだったからこそ、歴史に語り継がれる Heavy な名演を残したのです。


このレポートで紹介してきた、これだけの数の楽器の全てが強烈な個性を持つサウンドを放つのです。
その中で他の楽器サウンドとバランスを取る事の難しさ、混ざり合って完成したバンドサウンドがどう聴こえるかという最も重要、 且つ 「決め手」となる判断にはトテツモナイ経験値とセンスが要求されます。


すでに察しがついている方もいるでしょうが、
全てのサウンドバランスを総指揮したのも厚見さんなのです。


ここ重要です。

本文冒頭の The 厚見玲衣 STYLE に追加してメモしておいてください。

“来季”のテストに出ます。(笑)



問1:厚見玲衣主催のライヴは何故いつも音が良いのか。( )の中を埋めよ。

答え:(  )メイニアックスだから。


サテ。
凄まじいサウンドを放ったこのNORTH

実は今回、いちばん苦労したのがマイクの立て方でした。
どんなに生音が素晴らしくても、よほど狭い空間でない限り
ドラムとヴォーカルはマイクを通してPAから増幅出力するしかないのです。

が、ぬわんと。

誰も持っていないドラムのマイキングに関するノウハウは、
誰も知らない。(爆死)

これだけは実際のライヴ会場にセットしてみて、会場の反響などを考慮しながら
試すしかないのです。なにせ、この形状です。(笑)

いったいどこにマイクを立てれば、ステージ上のドラムの音を客席でも聞けるようになるのか。。。とにかくMAKE & TRY しかありません。
もしかしたら、2メートルくらい離れた位置で集音するのがいいのかもしれないし、打面にマイクをくっ付けたほうがいいのかもしれません。

「よし、どんなでもいいんで、先ずは思いつくままにマイクを立ててください。音を聞きながら最良のポイントを探しましょう。」

音響担当さんにそうお願いして、最初に試したのは筒の中にマイクを突っ込むセッティングでした。マイクを出来るだけ打面に近づけて、アタック音を集音しつつ湾曲した筒の中の鳴りも同時に“録れるかもしれない”と狙っての挑戦です。

がっ!!!!

ここで大事件が発生してしまったのです!

たった今まで、ズドドドドゥ〜ンと鳴り響いていたサウンドが、
マイクを通したとたん、聴いたこともない音に
変わってしまったのです。

 


パタパタパスン。(笑)

 

いっかーん!こんなじゃない!
って慌ててマイクの位置を直そうと駆け寄ろうとした瞬間でした。。。

すーっと。

厚見さんが。。。

 

楽屋に引きこもってしまったのです!(爆)

 

「こんな音じゃ、今日はもう演りたくないよ。。。」と言い残し、
なんと。。。寝ちゃいました!(爆)

もうね、内心は焦りまくりつつも、ここは冷静にならねばと
美しいハズの NORTH しばらく眺めていたら、

「 ん!?」

なんか美しくない。

百歩譲って、もしタムの筒中でマイク集音するとしても、
そのマイクを立てているマイクスタンドが、
タムに突っ込まれている様は、

まるで。。。

 

コンビニのおでん売り場のようなのです!


5個の湾曲した ちくわ(タム)に、5本の串(スタンド)がプスリと。(笑)
容赦なく刺さっている光景。

いっかーん!(>_<)

 

慌てて刺さった串を全て抜き取って、とにかくいちばん見た目の
カッコよさをスポイルしない位置にマイクを仮置きしました。


が、ぬわんと!その瞬間!

 

スドドドドゥオオォン!

 

えー!って思った次の瞬間、

凄い勢いで楽屋から駆け出してきた厚見さんが叫んだのです。

「いったいナニをしたのっ!」

あまりの勢いに、おもわず「すっ、すいませんっ」って
咄嗟に謝っちゃたんだけど、(笑) 

楽屋で寝てても耳は起きてたんですかっ。



で。そこからの作業はもう大笑い!

ホンの数センチ位置を変えると激変するサウンドのスィートスポットを探しながら、無骨なマイクスタンドがNORTHの美しい曲線美を 邪魔しない角度に調整していくと、まるで瀕死の生き物が復活したかのように、NORTHサウンドがみるみる巨大化していったのです!

「これだよ!これ!」

「あれ。起きたんですね。(笑)」

「この音聴いて、寝てなんていられないよ!」

「キマシタね!」

「ようし、リハを始めよう!」

 

湾曲した筒の中を、
ウォータースライダーみたいにシブキをあげながら
ビキニを着た“音”がツルリと滑り下りてきて、
マイクにスポンと吸い込まれる光景って、見た事あります?

 

ボクはあります。(笑)

 

テナワケで、

この日のライヴを見た多くの方々から寄せられた

「ドラムの音が凄くて良かった!」という賛辞が、

「いっちばん嬉しい!」 by厚見さん。

なのです。(笑)

 

あんなにたくさんのキーボードを持ち込んでおいて、
いちばんはそこですかっ!

って聞こえてきそうなので、
この NORTH との苦悩の日々の写真も公開しましょう。

これは厚見さんの所有する ヴィンテージ Ludwig ドラムセットと
NORTH を比較テストしてるスタジオでの光景。

見た目は最っ高の NORTH ですが、調整次第でサウンドは激変してしまう癖のあるドラムです。その調整のノウハウもまた、誰も持っていないからには、こうして最高のサウンドを持つヴィンテージ Ludwig と並べて徹底的に研究する必要がありました。
で。テストしてると、あれ?やっぱ本番も Ludwig のほーがいいんじゃないか?っていう誘惑も一瞬よぎり。(笑)

銀ラメをまとい美しく輝く Ludwig 姫の誘惑を振り切り、ネズミ色の NORTH を美人に磨く。
よぎる煩悩を振り払うまで、研究に研究しまくったからこそ、あの凄まじいサウンドを実現できて、得られた“評価”だったワケで、

つ・ま・り、 煩悩との闘いを乗り越えた達成感があったワケ。

ね。嬉しいでしょ。


どっちもオバちゃんだけどね。

 

 

本物の楽器が持つ特別な力。

そのことを次々とリアル体験させてくれる、
このNORTHというドラムが起こした“奇蹟”を
もっと知りたい方はコチラを御覧ください。

 

一度読んだ事のある方も、是非、読み返してみてください。
このレポートに記された全ての出来事の“最初の一歩”が、
数か月前に決まっていたかのように記されていたことに
きっと気づいて頂けると思います。


うーん。今となっては、おでんみたいな串刺し写真も
記念に撮っておけばよかったな〜(笑)

 


第 V 章 Arabesque 

この日。GBに集まった私達はまぎれもなく
音楽が時空を超える瞬間に放つ美しい光に包まれました。
そういう “特別な力” を持つ音楽に出会え、
そして惹かれたことを誇らしくさえ思う私達に彼らは応えてくれました。


MOON DANCER
 そして、TACHYON


ここに記した文章を読めば、
まるで称賛の嵐だなと感じられるかもしれません。

そのトーリです。

ひとつも御世辞のタグイを含まない、ほんとうに見たものだけを
ありのままに書いたらば、
称賛の嵐となってしまったのですから。

美しい光も誇らしいプライドも。


あの場に居た誰もが「あったあった!心の中にあった!」と言う、
これは生々しいリアルレポートでなのす。

 

そしてこの日は。。。


よーく見ると、TACHYON の A の文字が、ちゃんと Λ になっています。(笑)



 

 

なにもかもが美しかったこの日のライヴの最後のシーンは、
会場中に溢れていた美しい笑顔でした。

 

光と魔法、祝福に包まれた空間

 

音楽の力は素晴らしい。

 

written by Eiji Farner

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