TIMチョ&宴ROCKS

ハニービーの奇蹟

Written by Eiji Farner

2011年9月24日、大船ハニービーで行われた
TIMチョ&宴ROCKS 第一幕千秋楽は、
歴史と記憶の両方に刻まれる凄まじき名演となりました。

 

ご覧になられた方は誰もが衝撃を受けたセットリストや演奏に対する賛辞は、あの衝撃の夜を体験された方々の記憶の前ではここで文字にしても意味を成しませんので、幸運にもサウンドチェックに立ち合わせていただけたボクが目撃した、あの夜に起きた奇蹟の話を記させていただきます。


兎にも角にも、あの夜のバンドサウンドは、これまでにボクが体験した何百ものコンサートに中でも“最上の音”でした。爆音麻痺しているボクが裸足で逃げ出したくなるくらいの大爆音でありながら、各楽器の音色は最上級の色気と美しさを放ち、それらはけっしてぶつかり合わず、全ての音がクリアに伝わってくるというアリエナイ状況が、そこにはありました。

なので、「信じられないような爆音なのに、耳が痛くならない、なんて良い音なんだ!」って、 おそらく誰もが感じたと思います。

失礼ながら、巨大なPAシステムがある店ではありませんでしたし、へヴィロックに適した店でもありませんでした。

実は。あの爆音。

ナント、皆さんの聞いたベースは、TIMチョさんの背後に置いてあったアンプからの「生音」だったんです!
ステージから5メートルまでの距離(つまり客席の前半分)に座っていた方々が聞いた音は、ドラムもギターも「生音」です。

PAスピーカーから50cmの距離に座っていた知人が、「ぜんぜん耳が痛くならない!なんて良い音なんだ!」とビックリしていましたが、PAから出てるバンドの音は20%、あとの80%は「生音」なのです。

だからこそPAスピーカーの目の前でも最高のバランスだったのです。

 

「いやいや、死ぬほどうるさかった!」という方(ボクも)が居るとすれば、それは「生音」がデカかったからなので、PAのせいではないのです。

後ろのほうの方や、カウンターサイドで離れて座っていた方にとっては、バンドの生音までの距離があるぶん、生音50%、PA音50%に聞こえていたのですが、あ・え・て、もう一度言うと、ベースは「生音」でした。PAからは出してませんでした。

ナルチョさんファン=ベースマニアに方は誰もが知っているでしょうけど、今の時代のベースサウンドって楽器の信号をそのままPA装置に送り込んで増幅して客さんに聞かせて、ステージ上のアンプは演奏者のモニター用として使うのが主流であって、70年代のようにステージ上のアンプを爆音で鳴らしてお客さんに聞かせるなんてことは、あんまりしません。

・・・あんまりしないんだけど・・・(笑)

ナルチョさんがTIMチョさんとナルと、
その“あんまり”を、されるんですね。

そうすると・・・ どうナルか・・・ っていうと・・・
ああナル(鳴る)!
さて。もう既にコアなTIMチョ&宴ROCKSファンの方は
お気づきでしょう。
「アンプで爆音鳴らすだけで、あのバンドサウンドにナルなら、
今までだってそうだし、どう違うんだ!」と。

さすがです。そのトーリ。

実は大船ハニービーでは、宴ROCKSとしては始めて直径38cmのスピーカーが2発入ったTIMチョさんお気に入りのスピーカーボックスをステージ上に持ち込んだのです。

ちなみに前回までのスピーカーは直径25cmです。机の上に実物大のマル書いて、その大きさの差を妄想してみてください。
一人前の寿司桶と、親戚が集まったときの寿司桶くらい。迫力の差があります。

こんなカンジ。

一人前の寿司桶(左)と、親戚が集まったときの寿司桶(右)

で。

そ・し・た・ら、何が起こったか。

ここからはTIMチョさんも驚く奇蹟が
起こってしまったのです。

暴露しますと、この日のサウンドチェックでは最後までBESTと呼べるバランスが作れず、
「みんなの音量を落としてバランスを取ろう」ということ(約束)になったのです。

果たして、本番が始まり、
ナルチョさんがTIMチョさんに変身するための儀式とも言える怒涛のベースソロが始まると
。。。そんなにデカくない。。。(笑)

これはこれで、サウンドチェックで作りあげたバランスだし。。。と思った次の瞬間!

あれ?
なんか、ベースの音、大きくなり始めたぞ。と。

それはみるみるみるみる大きくなって、まさに「変~身!」と、いわゆる仮面ライダー世代の「等身大」ではなく、ウルトラ的「巨大化変身」なワケで、もう大爆笑!

「鳴瀬喜博さん、オトナゲないですっ!」

後でご本人に確認させていただいたら、「わ~た~し~は~やってない~♪」と空に向けて口笛を吹きながら申されておりましたので、これはもう、アドレナリン噴出してしまって指の圧力が2倍になってしまった結果の仕方ない出来事だったということにして。(笑)

で。

ここからが“奇蹟”の始まり。

その状況を瞬時に察知されて、すかさずボリュームをググっと上げる城戸さんのドラム。
(ボリュームツマミは無いので、つまり肉体のリミッターを解除して叩くパワーをググッと上げたのですね。)

これじゃ、サウンドチェックの時の二の舞で、ぐちゃぐちゃになる!って危惧したのは一瞬でした。
なんと余計な共鳴音がお客さんの着ている洋服に吸収され、まるでこうなった時のためにと(笑)開演前にひとり居残りって入念に調整した城戸さんの操るヴィンテージ・ラディック・ドラムサウンドが、見事なまでに最高のバランスになったのです。

慌ててPAブースの駆け込んで、「ヴォーカルとキーボードを上げてください!これからマジックが起こります!」と叫んでしまったボク。(笑)

次の瞬間。

なんと。

店(部屋)が、鳴り始めたのです。

余談ですが、アンプのスピーカーって、まあるいスピーカーから出ている音は半分で、あとの半分はスピーカーボックス(箱)が共鳴して鳴って、我々人間の耳に届くんですが(学校でそう習いましたよね)、この日、TIMチョさんが持ち込んだエレクトロヴォイス社の38センチスピーカー×2発は、ナント!
収納されているボックスではなく、店という“箱”を鳴らし始めたのです。

ボクが感じたサウンドの世界観は、まるでTIMチョさんのスピーカーボックスの中に、ドラムやギターと一緒にお客さんまでが収納されていて、その箱の中で共鳴しあう各楽器の音と、お客さんの身体(服)までもが、あの「奇蹟のサウンドバランス」を作り上げているように感じたのでした。

ハードロックの神様は、
なんて粋なハカライをしてくださるんでしょう!

みんな、共鳴する箱(店)の中に居て、それは共鳴なので、どんどん“鳴り”が大きくなってゆくワケで、だからこそどんどん音量があがって、もうとっくにPAキャパシティを上回る、もの凄い爆音なのに。

全てのサウンドがクリアであり、けっして耳ダケを攻撃しない。

箱の中に居る全員の“五感”に直接伝わってくるワケで、シンバルもオルガンも、まるで目の前で繊細かつ大迫力で鳴っているように聴こえてきて、お客さんとステージ上のバンドメンバーは、同じ音を体感していた、とも言えます(← これってアリエナイことなんです)。

前のほうで見ていた方も、カウンターサイドのいちばん奥の方も、PAスピーカーの真ん前の方も、ステージの上も、楽屋の中までも。誰もが同じベースキャビネットとういう“箱”の中に身を置いて、爆音ベースを浴びていたとゆう。(笑)

そんなマジックみたいなことができるベーシストって!

理論的に分析すれば、ベースの音を拾うマイクをアンプの前に立ててませんでしたから、たぶんヴォーカル用のマイクでベースの音も拾ってしまって、PAスピーカーから洩れて、その音に共鳴した箱(店の床や天井)が鳴り出して、またその音をヴォーカル用のマイクで拾ってしまって、いわゆるループというか、奇蹟の共鳴状態に陥ったのではないでしょうかね。

その証拠に・・・ 天井からパラパラと。(笑) 落ちるものをボクは見ましたしね。(笑)

いやー、実に。

オトナゲない爆音でしたっ!(爆!)

 

あれはまさに、ボクが憧れ続けてきた70年代のハードロックサウンドそのもの。しかも最上級の。

まさか21世紀に、あんな凄いハードロックサウンドを体験できる日が実現するなんて!
タイムマシンに乗って、「すごい未来が待っているんだぞ」と、中学生だったボクに教えてやりたいです!

TIMチョさん、素晴らしい奇蹟の体験を味わせてくださって、ほんとうにありがとうございました!

追 伸

かつて、あれをやって寿命を縮めたジミヘンドリックスや、恐らく健康のために(笑)あのスタイルを早々に引退したティムボガート大先生を見習えば、あんなにも凄まじいまでに肉体も魂もゴリゴリ削ぎ落とすような本物のハードロックは身体に毒です。(笑)

しかも店には近所から苦情も来たりして、ティムボガート・スタイル禁止!エレクトロボイス禁止!ってナルかもしれません。

そして、私達聴衆にまでも感動と同時に襲いかかってくる、こちらまでがおにょろべっちょろになる怒涛の疲労感・・・(笑)

がっ!

還暦を過ぎてなお、あのスタイルを炸裂させることが出来るベーシストは世界中に、鳴瀬さん以外に誰一人として居ないとあらためて大船ハニービーで確信しました。

鳴瀬さんの御健康を心配しつつも・・・
また次も体験させて欲しいと願う、貪欲なるボクの性!

地球最後にして最強のハードロックベースバンド!
TIMチョ&宴ROCKS の第2幕、期待して止みませんっ!

で。ハタと。

奇蹟の爆音共鳴状態に突入した、オープニングナンバーの「迷信」で、
咄嗟に音量を上げた各パートですが。

たぶん皆さん読んでいて気付かれたましたよね。(笑)
ギターの北島健二さんだけが、「あえて、上げなかった」のです。

爆音の中でもけっして埋もれることがない、突き抜けるような音色があらかじめ作られていたからこそ為し得る、これぞまさに職人ワザ!

「北島さん、すごい!」って、PAブースで叫んだ次の瞬間・・・

ハッ!っと。

あれ?もしかして、最初っから、かなりデカめに用意周到されてたのかな。
と気付いたボク。(笑)

うーん。まさにっ。
本番になるとティムボガートがどう出てくるか、
熟知しているジェフベックが如し。
これぞ職人の成せるワザ!

あらためて。
あの夜の奇蹟のバンドサウンドは、この素晴らしいメンバーだからこそ
導くことができたのだと、
ここに記すまでもなく・・・

・・・「ティムボガート・マニアック」に続く。(笑)