記念すべき“TIMチョ&宴ROCKS”デビューライヴとなる全国ドームツアー初日は、東京ドーム八王子支店、「八王子 XYZ 」に約60万人もの観客を動員して行われました。この日のライヴを最前列で体験された約60人のお客さんは、まさに神様に選ばれし歴史の証人です。
次々と繰り広げられる、完璧なる演奏のカクタスの名曲・・・って。あ。セットリストに選ばれた全ての曲を知っている方って、たぶんいなかったハズですね。
先ずは記念すべきデビューライヴのセットリストです。
1st Stage | |
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(1) | Bass Solo "from Naru-Chop to TIM" |
(2) | Bad Stuff |
(3) | Situation |
(4) | Sweet Sweet Surrender |
(5) | Tonight I'll Be Staying Here With You |
2nd Stage | |
(6) | You Keep Me Hanging On |
(7) | Solid Lifter |
(8) | Jizz Whizz |
(9) | Bringing Me Down |
(10) | Louisiana Blues |
(11) | Shot Gun |
Encore | |
(12) | Going Down |
(-) | Superstition ← 諸事情でカット(笑) |
このセットリストを読んでもなお、「知らねーな。」っていう貴方。
いーんです。それで。(笑) なぜならば、知らないハズの未発表曲もあるからなのです。各曲の“ひじょーに簡単な”解説をさせていただきます。
先ずは (1) の Bass Solo です。
ビートを刻むドラムだけをバックに怒涛のチョッパー・ソロを炸裂させる鳴瀬喜博氏のライヴではおなじみのハイライト・シーンがいきなり冒頭から炸裂するのにはワケがあります。鳴瀬氏が宴ROCKSをバックにTIMチョに変身すると・・・「全盛期のティム・ボガートはチョッパーをしない」ので、鳴瀬氏のチョッパーを楽しみにしているファンを宴ROCKSが登場する前に(笑)満腹にさせておかなければならないのです。
そんな杓子定規なこと言わないで、90年代にはティム・ボガート先生もぺちぺちチョッパーしてたじゃないか。と思った、そこの貴方! あまいっ! 鳴瀬氏のチョッパーでは、ど・う・し・て・も、「あの情けない味」が出せず、あまりにも似ないのですよ。(笑)
なので、このオープニングで繰り広げられる “儀式” で、ナルチョファンをいきなり満腹にさせディフェンスを甘くしておいてから、恐らく我々の誰もが未体験となる怒涛のティム・ボガート・スタイルへ変身して、第2ラウンド(2曲目ともいう)で早くも3カウントを奪おうというのがTIMチョ流なのです。
余談ですが、1973年に来日された全盛期のティム・ボガート先生は、第1ラウンド(1曲目)にして1万人の観客を踏み潰したという伝説があります。その時に病院送りとなって未だに退院できないでいる、その中の一人こそがTIMチョ氏なのです。自らの経験を踏まえ、お客様を第2ラウンドまでジラすあたりは、師匠ティム・ボガートよりもずっと紳士的なのです。
そして、遂にステージ上に登場した“宴ROCKS” の面々。
いきなり炸裂した (2) Bad Stuff は、カクタスの曲です。1972年に発売され、毎朝、青年・鳴瀬喜博君を起こし続けたライヴ盤「汗と熱気」 に収録されています。
そのライヴバージョンを完璧なまでに再現した“宴ROCKS”の演奏は、世界中のカクタスファン誰が見ても「こりゃカクタスより凄い!」と認めるしかない凄まじいものでした。
ヘタすっと 「あなたたち、カクタスでしょ。」と。
地球最後のハードロック・ベース・バンド・宴ROCKS の御披露目となったこの日。この瞬間に立ち会った皆さんの顔が、この曲の演奏中終始驚きと笑顔に溢れていたことをボクは生涯忘れないし、突然途切れるように終了した爆音演奏(そういう曲なの!)の、次の瞬間、一瞬の間を置いて爆発した約60万人の大歓声は凄まじいものがありました。
ああ、カクタスが好きでよかった!
第2ラウンドで勝負に出たTIMチョ氏ですが、第1ラウンド終了後のインターバルにおいて、つい予定にない長尺MCを繰り広げてしまったために、観客は息を吹き返してしまったのが想定外だったともいえます。しかし本家カクタスも敵わない絶妙ナルMC術には、この日のライヴを心待ちにしていた世界中のカクタスファンも恐らく脱帽だったことでしょう。
この日、2時間半以上も繰り広げられたライヴをスタッフが録音して、後日演奏部分だけを編集してみたら、なんと74分のディスク一枚に収録できてしまったという逸話(つまり、MCの方が長かったとゆーこと)とか、セットリストを見て誰もが気付くとおり、完全燃焼してライヴを終えたメンバーが機材を撤収作業中に「あ。迷信やるの忘れた!」「え?やらなかったっけ?」「そういや忘れてた!」って後から気付くくらい盛り上がったこととか、TIMチョ氏の絶妙ナルMCに起因するこの日の裏話は尽きません・・・。って。
あ。
今はセットリストの解説中でしたっ。(爆!)
2曲目にして逸れてしまった・・・まさに I'm a “バッド・スタッフ”っ(汗!)
このペースじゃ書ききれないんで、テンポをあげます。
(3) 第二期ジェフ・ベック・グループの「ラフ アンド レディ」収録の名曲を、ベースだけティム・ボガート風に。(笑)
(4) BBA (Beck, Bogert & Appice)のライヴ盤「BBAライヴ」に収録されているヴァージョンを、まるでティム・ボガート本人が弾いている風に。
(5) 第二期ジェフ・ベック・グループの、通称「オレンジ・アルバム」収録の名曲を、ベースだけティム・ボガート風に。
で、ここでお客さんの三半規管を気遣ってのインタバール。
ちなみに。
この日の会場、八王子XYZ さんは、恐らく「本物は本物の音、下手くそは下手くそな音」がそのまんまお客さんにダイレクトに伝わるべく、最小限の音響機材でしたので、この日のお客さんが体験したバンドサウンドはまさに「生音」でした。
ドラムにもアンプにもマイクは一本も立っておらず、アリーナ席いちば~ん後ろの立ち見の方まで、全員が「バンドの生音」を聴いていたのです。それはまるで狭い練習スタジオの中に身を置いているかのような生々しいリアルサウンドでしたし、小さな小さなアンプと、マイクが一本も立っていないドラムセットを使って、どうやってあの爆音を出したのかというと、それはまさしく、ミュージシャンの肉体(指や喉)を以って大音量を出せるからこそ成せる技だったワケです。
このバンドを、単に音のデカイ爆音バンドと称するのは安易すぎます。音響機材の出力キャパシティや、会場(箱)の許容キャパシティを越えたトンデモないデカイ音を、最高のバランスと音色で自在にコントロールできるバンドがTIMチョ&宴ROCKS なのです。この日の“最小機材”会場から始まったワールドツアーを廻る中で、バンドのサウンドクリオリティは、より次元を高めていくことになります。
ちなみに、このレポートはツアー終了後に書いていますので、各会場で何度もお会いしたリピーター=ロイヤルファンの方々が皆さん、こうおっしゃってました。
「TIMチョ&宴ROCKS のライヴにはハズレがない!」
「TIMチョ&宴ROCKS のライヴでは本物のロックサウンドが聴ける!」
「TIMチョ&宴ROCKS のライヴは、爆音なのになんて良い音なんだ!」
あっ・・・。また逸れたっ!
セットリストの解説に戻ります。(笑)
2nd Stageは、厚見さんのヴォーカルによる、ヴァニラ・ファッジの名曲 (6) からスタートです。
ヴァニラ・ファッジこそ、ティム・ボガート先生の名を一躍世界中に知らしめたバンドであり、驚くべきことに先生はこの時すでに前人未到の凄まじきハードロックベース・スタイルを確立していたのですから、その登場はジミヘンドリックス同様に火星からやって来たとしか思えない“天才”の出現だったワケです。イントロのオルガンと、後半のピアノ・インスト部分は、1977年に発売されたロッド・スチュワートの名盤「明日へのキックオフ」収録バージョンのアレンジを導入しながらも、オルガニスト(マーク・スタイン)が歌うヴァニラ・ファッジ・バージョンをTIMチョ氏との最強PTAタッグで再現する様は、まさに世界中のヴァニラ・ファッジ・ファンが滝涙する光景でした。
そして、いよいよ、(7)、(8)。
TIMチョ&宴ROCKS のハイライトとも言える、誰も知らない(笑)、衝撃のインストメドレーです。この2曲は、BBA の「幻のセカンドアルバム」(レコーディング終了後、バンドが解散したために発売されなかった)に収録されており、この幻のセカンドアルバム音源が流出した海賊盤か、解散間際のBBAのライヴを観に行ったか、違法に録音されたライヴ音源を聴いたことのある人しか、知るワケがない“幻の曲”なのです。
BBA にはキーボーディストがいませんので、つまりTIMチョ&宴ROCKS では、この複雑なリズムと超絶テクニックを要求される2曲に、厚見さんのオルガンを加え、凄まじいプログレッシヴ・ハードロック・アレンジを完成させています。 「オレ達のオリジナル曲ってことにしとこう。(笑)」と、ヨコシマな考えが脳裏をヨギってしまってもそれは仕方がないほどにカッコイイ。(笑)
(8) の後半では、城戸さんの壮絶なドラムソロも導入されており、この日初めて城戸“KID”紘志さんのドラムを体験された観客全員が度肝を抜かれる事態に陥ったワケです。その光景を満面の笑みをもって見守るTIMチョ氏の、「オレの知り合い~」っていうドヤ顔に、観衆はティム・ボガート・スタイルの真骨頂を見たハズです。
(9) は (2) と同じカクタスのライヴ盤「'Ot 'N' Sweaty」に収録されている名曲です。豆知識として、TIMチョ氏の愛用する、ティム・ボガート風“TIMチョ・モデル”プレシジョン・ベースには、それでなくてもデカいベースの音をさらにブーストして歪ませようという魂胆の“Boost”スイッチと、さらにその上を行く歪みを得てナニモカモ踏み潰そうという魂胆の“Distortion”スイッチが内蔵されていて、カクタスとヴァニラ・ファッジを演る時は必ず“Boost”させているのです。
ジェフ・ベックグループの曲を演るときは“普通の”デカイ音、カクタスとヴァニラ・ファッジは必ず歪んだ音、BBAの曲を演るときはその時の気分で。と、固く決められているようです。(笑)
(10) は、ヴォーカルの生沢さんの大好きなポール・ロジャースのソロアルバムに収録されている曲です。
TIMチョ&宴ROCKSでは、各自のやりたい曲を公平にセットリストに取り入れつつ、それらの曲を全て「もしもティム・ボガートが弾いたなら」というお題で容赦なく塗り替えていくのです。つまり表面的には民主主義を装いつつも、その実は独裁的ティム・ボガート主義であるからこそ、全ての曲が最高にかっこいいハードロックベースに彩られるワケで、筆者は一瞬、カクタスの未発表曲なのかと思うほど、これはカッコイイ曲です。
本編ラストの (11) は、(6) と同じくヴァニラ・ファッジの代表曲です。
この曲でとうとう、前述の“FUZZ”スイッチがONとなり、爆裂ベースソロが60万人を踏み潰しそうとすると、バンドメンバー全員が我も我もと乱入してくるという凄まじい展開に襲われます。ま・さ・に、ショットガン。
踏み潰されながらも
「全盛期のティム・ボガート・スタイルを伝承しているのは、世界中でTIMチョ氏ひとりしかいないんだ!」
と叫び続けるボク。
終演後の草も生えない瓦礫の荒野に取り残された観客もまた、皆一様に
「こんな凄いの・・・TIMチョしかいない・・・」
とつぶやきながら家路に着いたハズなのです。
(12) は、(10) で根こそぎなぎ倒されながらも、抑えきれない欲望を爆発させる大観衆に応えてのアンコール曲。そのイントロは、ジェフ・ベックグループでのアレンジで有名なピアノ連打に始まりつつも、これまた名盤「BBAライヴ」ヴァージョンです。
「この曲は知っている」と安心されたお客さんもいらしたでしょうが、この日の演奏で特筆すべきマジックは、皆が油断したこの曲で起こりました。TIMチョの弾くグルーヴィーなベースラインに、なんと、厚見さんが左手で弾くピアノのベースラインを重ねて“競争”を挑んだのです。負けず嫌いの(負けてはいけないティム・ボガート・スタイルの)TIMチョ氏を煽るようにピアノの音が走り回ることで、まんまと(笑)、みるみる凄まじい競り合いが始まって、転がる転がる。もう富士山の頂上から御殿場あたりまで、どんどん加速して転がり続けるおにぎりのように!
天井から雪のように降り注ぐ無数の音符をよけきれないし、肩に乗ったその音符のひとつひとつがトンデモない重さなモンで、結局観客は全員その下敷きにされてしまって、この日の“TIMチョ&宴ROCKS デビュー・ライヴ”は無事(?)終わったのでした。
ここに書いたレポートは、“迷信”なんかじゃなく、ほんとうに起きたことなのです。その「迷信」を最後に演るの忘れちゃったけれど(笑)、この日のライヴは、“迷信”じゃなくて、“本物”のハードロックだったという・・・ことで。
よし。上手いことまとめたぞ。(笑)
Written by Eiji Farner