この日、大船ハニービーで行われたTIMチョ&宴ROCKS 第一幕の千秋楽は、歴史と記憶の両方に刻まれる凄まじき名演となりました。ご覧になられた方は誰もが衝撃を受けたセットリストや演奏に対する賛辞は、あの衝撃の夜を体験された方々の記憶の前ではここで文字にしても意味を成しませんので、幸運にもサウンドチェックに立ち合わせていただけたボクが目撃した、あの夜に起きた奇蹟の話を記させていただきます。
とにもかくにも、あの夜のバンドサウンドは、これまでにボクが体験した何百ものコンサートに中でも“最上の音”でした。爆音麻痺しているボクが裸足で逃げ出したくなるくらいの大爆音でありながら、各楽器の音色は最上級の色気と美しさを放ち、それらはけっしてぶつかり合わず、全ての音がクリアに伝わってくるというアリエナイ状況が、そこにはありました。
なので、「信じられないような爆音なのに、耳が痛くならない。
なんて良い音なんだ!」って、おそらく誰もが感じたと思います。
失礼ながら、巨大なPAシステムがある店ではありませんでしたし、
へヴィロックに適した店でもありませんでしたが、それなのに、です。
この日も、目黒BAJの時と同じく、皆さんの聞いたベースは、TIMチョさんの背後に置いてあったアンプからの「生音」だったのです。しかもステージから5メートルまでの距離(つまり客席の前半分)に座っていた方々が聴いた音は、ドラムもギターも「生音」だったのです。
PAスピーカーから50cmの距離に座っていたボクの友人が、「ぜんぜん耳が痛くならない! なんて良い音なんだ!」とビックリしていましたが、PAから出てるバンドの音は20%、あとの80%は「生音」だったのです。だからこそPAスピーカーの目の前でも最高のバランスだったのです。
「いやいや、死ぬほどうるさかった!」という方(ボクも)がいるとすれば、それは「生音」がデカかったからなので、PAのせいではないのです。後ろのほうの方や、カウンターサイドで離れて座っていた方にとっては、バンドの生音までの距離がある分、生音50%、PA音50%に聞こえていたのですが、あ・え・て、もう一度言うと、ベースは「生音」でした。PAからは出してませんでした。
目黒BAJのレポートでも説明しましたが、あえてもう一度説明しますと、今の時代のベースサウンドって楽器の信号をそのままPA装置に送り込んで増幅して客さんに聞かせて、ステージ上のアンプは演奏者のモニター用として使うのが主流であって、70年代のようにステージ上のアンプを爆音で鳴らしてお客さんに聞かせるなんてことは、あんまりしないのです。
・・・“あんまりしない”んだけど・・・(笑)
ナルチョさんがTIMチョさんとナルと、
その“あんまり”を、されるんですね。
そうすると・・・ どうナルか・・・?
っていうと・・・ ああナル(鳴る)!
さて。もうすでにコアなTIMチョ&宴ROCKSファンの方はお気づきでしょう。
「アンプで爆音鳴らすだけで、あのバンドサウンドにナルなら、今までだってそうだし、どう違うんだ!」と。
さすがです。そのトーリ。実は大船ハニービーでは、宴ROCKSとしては始めて直径38cmのスピーカーが2発入ったTIMチョさんお気に入りのスピーカーボックスをステージ上に持ち込んだのです。
(ちなみに前回までのスピーカーは直径25cmです。机の上に実物大のマル書いて、その大きさの差を妄想してみてください。一人前の寿司桶(左)と、親戚が集まったときの寿司桶(右)くらい、迫力の差があります。)
で。 そ・し・た・ら、何が起こったか。
ここからはTIMチョさんも驚く奇蹟が起こってしまったのです。
暴露しますと、この日のサウンドチェックでは最後までBESTと呼べるバランスが作れず、「みんなの音量を落としてバランスを取ろう」ということ(約束)になったのです。
果たして、本番が始まり、ナルチョさんがTIMチョさんに変身するための儀式とも言える怒涛のベースソロが始まると・・・ そんなにデカくない・・・(笑) これはこれで、サウンドチェックで作りあげたバランスだし・・・と思った次の瞬間!
あれ? なんか、ベースの音、大きくなり始めたぞ。と。
それはみるみるみるみる大きくなって、まさに「変~身!」と、いわゆる仮面ライダー世代の「等身大」ではなく、ウルトラ的「巨大化変身」なワケで、もう大爆笑!
「ななな、鳴瀬喜博さん、オトナゲないですっ!」
後でご本人に確認させていただいたら、「わ~た~し~は~やってない~♪」と空に向けて口笛を吹きながら申されておりましたので、これはもう、アドレナリン噴出してしまって指の圧力が2倍になってしまった結果の仕方ない出来事だったということにして。(笑)
で。ここからが“奇蹟”の始まり。
その状況を瞬時に察知されて、すかさずボリュームをググっと上げる城戸さんのドラム。(ボリュームツマミは無いので、つまり肉体のリミッターを解除して叩くパワーをググッと上げたのですね。)
これじゃ、サウンドチェックの時の二の舞で、ぐちゃぐちゃになる!って危惧したのは一瞬でした。
なんと余計な共鳴音がお客さんの着ている洋服に吸収され、まるでこうなった時のためにと(笑)開演前にひとり居残りって入念に調整した城戸さんの操るヴィンテージ・ラディック・ドラムサウンドが、見事なまでに最高のバランスになったのです。
慌ててPAブースに駆け込んで、「ヴォーカルとキーボードを上げてください! これからマジックが起こります!」と叫んでしまったボク。(笑)
次の瞬間。
なんと。
店(部屋)が、鳴り始めたのです。
余談ですが、アンプのスピーカーって、まあるいスピーカーから出ている音は半分で、あとの半分はスピーカーボックス(箱)が共鳴して鳴って、我々人間の耳に届くんですが(学校でそう習いましたよね)、この日、TIMチョさんが持ち込んだエレクトロヴォイス社の38cmスピーカー×2発は、ナント! 収納されているボックスではなく、店という“箱”を鳴らし始めたのです。
ボクが感じたサウンドの世界観は、まるでTIMチョさんのスピーカーボックスの中に、ドラムやギターと一緒にお客さんまでが収納されていて、その箱の中で共鳴しあう各楽器の音と、お客さんの身体(服)までもが、あの「奇蹟のサウンドバランス」を作り上げているように感じたのでした。
ハードロックの神様は、
なんて粋なハカライをしてくださるんでしょう!
みんな、共鳴する箱(店)の中にいて、それは共鳴なので、どんどん“鳴り”が大きくなってゆくワケで、だからこそどんどん音量が上がって、もうとっくにPAキャパシティを上回る、もの凄い爆音なのに。全てのサウンドがクリアであり、けっして耳ダケを攻撃しない。
箱の中にいる全員の“五感”に直接伝わってくるワケで、シンバルもオルガンも、まるで目の前で繊細かつ大迫力で鳴っているように聴こえてきて、お客さんとステージ上のバンドメンバーは、同じ音を体感していた、とも言えます(← これってアリエナイことなんです)。
前のほうで見ていた方も、カウンターサイドのいちばん奥の方も、PAスピーカーの真ん前の方も、ステージの上も、楽屋の中までも。誰もが同じベースキャビネットとういう“箱”の中に身を置いて、爆音ベースを浴びていたとゆう。(笑)
そんなマジックみたいなことができるベーシストって!
理論的に分析すれば、ベースの音を拾うマイクをアンプの前に立ててませんでしたから、たぶんヴォーカル用のマイクでベースの音も拾ってしまって、PAスピーカーから洩れて、その音に共鳴した箱(店の床や天井)が鳴り出して、またその音をヴォーカル用のマイクで拾ってしまって、いわゆるループというか、奇蹟の共鳴状態に陥ったのではないでしょうかね。
その証拠に・・・ 天井からパラパラと。(笑) 落ちるものをボクは見ましたしね。(笑)
いやー、実に。
オトナゲない爆音でしたっ!(爆!)
あれはまさに、ボクが憧れ続けてきた70年代のハードロック・サウンドそのもの。しかも最上級の。
まさか21世紀に、あんな凄いハードロック・サウンドを体験できる日が実現するなんて! タイムマシンに乗って、「すごい未来が待っているんだぞ」と、中学生だったボクに教えてやりたいです!
TIMチョさん、
素晴らしい奇蹟の体験を味わせてくださって、
ほんとうにありがとうございました!
かつて、あれをやって寿命を縮めたジミ・ヘンドリックスや、恐らく健康のために(笑)あのスタイルを早々に引退したティム・ボガート大先生を見習えば、あんなにも凄まじいまでに肉体も魂もゴリゴリ削ぎ落とすような本物のハードロックは身体に毒です。(笑) しかも店には近所から苦情も来たりして、ティム・ボガート・スタイル禁止! エレクトロヴォイス禁止! ってナルかもしれません。そして、私達聴衆にまでも感動と同時に襲いかかってくる、こちらまでがおにょろべっちょろになる怒涛の疲労感・・・(笑)
がっ!
還暦を過ぎてなお、あのスタイルを炸裂させることが出来るベーシストは世界中に、鳴瀬さん以外に誰一人としていないとあらためて大船ハニービーで確信しました。
鳴瀬さんの御健康を心配しつつも・・・
また次も体験させて欲しいと願う、貪欲なるボクの性!
地球最後にして最強のハードロック・ベースバンド!
TIMチョ&宴ROCKS の第2幕、期待して止みませんっ!
で。ハタと。
奇蹟の爆音共鳴状態に突入した、オープニングナンバーで、咄嗟に音量を上げた各パートですが。たぶん皆さん読んでいて気付かれたましたよね。(笑)
ギターの北島健二さんだけが、「あえて、上げなかった」のです。爆音の中でもけっして埋もれることがない、突き抜けるような音色があらかじめ作られていたからこそ為し得る、これぞまさに職人ワザ! 「北島さん、すごい!」って、PAブースで叫んだ次の瞬間・・・ ハッ!っと。
あれ? もしかして、最初っから、かなりデカめに用意周到されてたのかな。と気付いたボク。(笑)
うーん。まさにっ。本番になるとティム・ボガートがどう出てくるか、熟知しているジェフ・ベックが如し。これぞ職人の成せるワザ!
あらためて。あの夜の奇蹟のバンドサウンドは、この素晴らしいメンバーだからこそ導くことができたのだと、ここに記すまでもなく・・・
って。あう! ミドコロ満載だったこの日のライヴを、サウンドのレポートだけしか書いてませんね! さささっと記しますね。
これまでに、不毛のハードロック・ベース砂漠にサボテンを植樹し続けた宴ROCKS でしたが、前回の目黒BAJを最期に生沢“AIK”祐一さんが円満脱退されたことによって、ポッカリと“巨大なクレーター”が開いてしまいました。そのクレーターを埋めるべく、この日凄まじいシャウトを披露してくださったのは、スペシャル・ゲストのGENKI さんでした。
そして前述の“ハニービーの奇蹟”を起こしたエレクトロヴォイス・スピーカーと共に持ち込まれた、もうひとつの“神器”は、厚見さん所有のヴィンテージ・ラディック・ドラムセットです。目黒BAJ では、城戸さんのセットにバスドラだけを組み込んだのですが、この日は「まるごとヴィンテージ・ラディックでやってみよう!」ということになり、フルセットを持ち込んだのでした。
毎々素晴らしいライヴを体験させてくださるTIMチョ&宴ROCKSに加わった、GENKIさんの歌とシャウト、そしてヴィンテージ・ラディック・サウンド。この日のライヴが、正にあの時代にトリップしたかのような感覚に陥る凄まじいものとなったのには、いくつもの“理由”があったからなのです。
小さな事件もありました。
毎回、徹底した「完全コピー」を披露されるドラムの城戸さんが、ナント譜面を忘れて来てしまったのです。(テカ。あの炸裂するドラムが、実は細かな一音に至るまで、完璧に譜面に記されていて、あの勢いで叩きながらその譜面を見て、忠実に再現していたということの方が衝撃的事件ですが。) 「今日はフルセットのラディックを用意したのに。これまで、せっかく完コピで演ってきたのに、ここで崩したくない。」とおっしゃる“真面目な”城戸さん。
「いーんじゃない。もう今日は
リミッター外して自由に叩いちゃってよ!」
とおっしゃる他のメンバー。←この文章の流れだと誤解されそうですが、けっして開演前に既に酔っ払っちゃた城戸さん以外のメンバーが不真面目ってことではありませんっ。(笑) 果たして本番では、リミッター解除された城戸さん(ノン・アルコール)の凄いこと凄いこと。それはまるで・・・自由奔放に暴れまわっていた全盛期のカーマイン・アピスのようでした!(笑) 忘れ物という小さなキッカケまでも、この日の凄まじい演奏を生んだひとつの要因となったこともまた“奇蹟”でした。
セットリストも、名盤「BBA LIVE」の代表曲である「Lady」が満を持して披露されました。もっともティム・ボガートらしい、カーマイン・アピスらしい、まるでTIMチョ&宴ROCKSのためにあるようなこの曲ですが、いやはやホント凄かった! 終演後も70万人の観客全員が鼻歌でイントロのリフを歌い続けてしまい、終電の京浜東北線がBBA一色に染められたという逸話はハードロック・ベース・ファンの間ではもはや知らぬ者はいないでしょう。生沢さん脱退を受けて、「これからはボク達でも歌おう。トナレバ、やっぱLadyでしょ!」と、導入されたこの曲ですが、歌ったのはGENKIさんでした。
なぜ、今までやらなかったのか、というと、「歌のKeyが低くて、Keyが合うメンバーがいない。低すぎて歌いにくい!」という理由だったから。「そーだ。GENKIに任せれば、何とかしてくれんだろ!」 高くて歌えないからぢゃなくて、低くて歌いにくいんで。って。
GENKIさんはハイトーン・シャウターなのにっ!(笑)
「低いっ、歌いにくいよ! それにちょっとしか歌うトコないじゃん。」って、あまり乗り気ではなさそうなGENKI さんに、「いいっ!いーねぇ。やっぱ、さすがーGENKIだよなぁ。」と、笑顔で接する宴ROCKSメンバーの顔には明らかに「やりたい、やりたい」って書いてあって。(笑)
で、弾くパートのあんまり無い厚見さんは、「城戸クンのドラム凄いね! まるでBBAだ! ボクは聞いてたい。」って。(笑)(この文章の流れもまた誤解されそうですが、けっしてメンバーがワガママだったり、リハーサルが学級崩壊していたっていう話じゃないです。)
GENKIさんファンには怒られそうなエピソードですが(笑)、このLadyがあったからこそ! GENKIさん本領発揮となった「Move Over」で、その凄まじいハイトーン・シャウトが炸裂したのです!(っていうのは嘘っぽいか。/笑)
LadyもMove Overも、ほんとうに素晴らしかった!
そしてアンコールでは、いきなりアドリブでブルースを演ることになったのですが、これがもう、この日起きた全ての“奇蹟”が集約されたかのような凄い演奏でした! 「終電まで時間あるし(笑)、ブルースやろうよ。じゃ、Key は、C ね。」 の一言しか打合せのない、正真正銘の全員アドリブ・ブルースセッション。あの日、あの光景を体験して、これを読んでくださっている方々には、「あれがアドリブだったのかっ!」って、おそらく皆さん衝撃受けていらっしゃるでしょう。
リハーサルを間近に見ていて、免疫の出来ている(と思っていた)ボクでさえも、腰が抜けてしまった凄まじい演奏に、“本物の音楽”が持つ特別な力、まさに“ハニービーの奇蹟”を、あの日共有した皆が感じていたと、ボクは確信しています。
Written by Eiji Farner
“第二期”TIMチョ&宴ROCKS に、続く・・・(笑)