日本のベース界を牽引してきた鳴瀬喜博氏が、ティム・ボガート・スタイルへと原点回帰するためにTUNE社へ特注したベースが、この Phoenix TIMチョ Model です。
外観は敬愛するティム・ボガート先生がヴァニラ・ファッジ~BBA 時代に愛用されていたフェンダー・プレシジョン・ベースを踏襲したスタイルとなっています。
ちなみにコレがティム・ボガート先生のプレシジョン・ベース。
飛行機・テレビと並ぶ20世紀最大の発明品がエレキベースであることに異論を唱える人はいないでしょう。床に置いて立てて弾くしかない人間の身長よりも巨大なサイズのバイオリン=ベースという低音楽器を、肩からブラ下げてギターみたいに弾けるようにしたことも、指板にフレットを付けて誰でも正確な音程でギターみたいに弾けるようにしたことも、ほんとうにトテツモナイ発想です。
そして地球史上最初のエレキベース、フェンダー・プレシジョン・ベースが発明されてから20年も経たないうちに、あんな風に使って、あんな風に鳴らしてしまった奇才ティム・ボガート先生。
音楽という人類の文化をも創り出すことになる発明品と、唯一無二の奇才が20世紀の地球上で遭遇したことによって生まれたハードロックベースというスタイル。それを再現し、継承し、伝承してゆくには、これはもう、この色のプレシジョン・ベースでなければならぬワケなのです。
ちなみにプレシジョン・ベースの“precision”とは、正確、精密、精確 という意味であり、誰でも簡単に正確な音程で弾けますよという意味なのですが、発売からわずか数年後には、ティム・ボガート先生によって「誰にも弾けないスタイル」を披露されてしまったことで、プレシジョン・ベースは売れなくなってしまいます。(←ウソです。筆者の妄想です。)
プレシジョン・ベース(以下プレベ)発表の数年後に発売された、エレキベース第二弾・ジャズ・ベース(以下ジャズベ)が、ぐんぐん人気を博し、エレキベースといえばジャズベとまで言われるほどに市民権を得た影には、プレベでハードロックを演るからには、「わかっているんだろうな。」という強迫観念をも強いるティム・ボガート先生の無言の圧力を誰もが耐えがたかったことは間違いないでしょう。
ここまで読んで、すでにお分かりですね。この Phoenix TIMチョ Model は、凄まじきティム・ボガート・スタイルのハードロックベースを再現することに特化したベースということです。
他のベースと、どこがどう違うのか。
それではご説明してまいりましょう。
このトーリ。
弦は4本です。
トレモロアームも無ければ、5弦でも6弦でも8弦でもない。
なぜならば、多弦ベースではハードロックには、ならないから。(断言!)
かつて。地球最強のハードロック・バンドと呼ばれ、世界征服をも果たした鉛の飛行船が多弦ベースの導入でその神通力を失ったのは記憶に新しい(?)史実です。
そして、なんとティム・ボガート先生御本人までもが6弦ベースに持ち替えた90年代には、かつてのスタイルを再現できなくなってしまったという。(本人が。ですよ!)
あ。これ、多弦ベース批判ではないですよ。それぞれの音楽スタイルには、それぞれに適した楽器があるっていうハナシです。
トレモロアームや多弦ベースの技術進化に最も深く関り、ベースという楽器の持つ可能性とポテンシャルを開拓し続けた鳴瀬喜博氏を以って、「ティム・ボガート・スタイルは4弦でなければ出来ない」と仰るのには、40年間徹底的に研究しまくったバックボーンに裏付けられた理由が存在するというハナシです。
なぁんだ。プレベのコピーか。懐古主義か・・・と思った貴方っ。甘~いっ!
この Phenix TIMチョ Model は、ベースという楽器のポテンシャルを開拓し続けてきた鳴瀬氏とTUNE社による最強コンビで作られているということをお忘れなく。
TUNE Official Web Site: http://www.cc.rim.or.jp/~tune/
たとえばっ。
4本しかない弦は、このトーリ、ボディの裏側からボディを貫通して張られています。
フェンダー社製のプレべでは、このように“裏通し”にはなっていません。
つまり弦の振動を容赦なく最大限にボディへ伝えようという魂胆です。
そしてこの巨大なブリッジもまた、フェンダー製プレベのブリッジの10倍くらいの存在感です。
4本しかない弦を最大限に駆使するティム・ボガート・スタイルを追及するなら、楽器もまた4本の弦からの振動エネルギーを最大限に活かそうという理念が見る者に爆音で伝わってきます。
そして。
色はコレっきゃない。
ティム・ボガート先生と同じナチュラルです。 美しい木目のボディはライトウェイトアッシュ製です。
その名の通り、もんのすごく軽い! どのくらい軽いか。っていうと、首からブラ下げているのを忘れるくらい。自分の身体の左腰と胸の間あたりからネックがニョキって生えていて、おなかの上に直接弦が張ってあるような錯覚に陥るくらい、ボディが軽い。弦の振動がおなかの皮を伝わって内臓に響くカンジというか、オデコの上の眼鏡を「あれ?メガネどこ行った?」って探す、あのカンジというか。あまりの軽さに、ベースを首からブラ下げたまま、うっかり立ち話に夢中になってしまってもおかしくないくらい軽い。
そしてそして。
ヘッドの形状は、コレっきゃない。
なぜなら。ティム・ボガートになりたいのだから。(爆!)
弾いているときに見えるヘッドの景色はコレです。
弾きながら、この光景を眺めていると、まるで自分がティム・ボガートなんじゃなかろーかとさえ思えてしまう、特別な昂揚感を与えてくれるヘッド形状なのです。
と、同時に。おのずとハードロックを弾きまくりたい衝動に駆られるのは言うまでもありません。
完璧なまでに真っ直ぐに調整されたネックの指板面はフェンダーのプレベよりもフラットに仕上げられています。そして丁寧に仕上げられた21本のフレットは、ティム・ボガート先生の愛用されたフェンダー製プレベよりも1本多いので半音お得サイズです。
そのおかげで、ライヴ後半で疲れてきていても、迷信のイントロの「プウーン」が、楽勝で弾けます。BBAライヴのオープニング曲が迷信なのには、そういう事情がある・・・のカモしれません。(妄想)
弦高は全てのポジションで均一、かつ、驚異的なまでに低くセットされています。最終フレット(一番手前)で、2mm以下。
なんと、弦とフレットの間に挟まったツマ楊枝が落ちませんっ。( しないか。そんなこと。)
にもかかわらず、全てのポジションで音がクリアであり、しかもどこのポジションでチョーキングしても音が詰まることはないのです。
ギターやベースを弾いたことのある人には、それがいかに凄い調整技術であるかが分かるとおもいます。下の写真の、1弦(一番右の弦)の下の「影」が、芸術的なまでに美しく均一である様をご覧いただけば、このベースの調整を自らの手で施した鳴瀬氏のティム・ボガート・スタイルへの凄まじい執念を誰もが理解できるでしょう。(笑)
※ 撮影時にツマ楊枝を添えようかとも思ったんですけど、叱られそうなのでやめました。(笑)
ティム・ボガート的サウンドを求め、当然ですが太いゲージの弦が張られていますし、前述の“裏通し”により、弦のテンション(張り具合)はチョーキングなんか出来ないくらい、かなりキツイんだろうな、とのイメージを抱きながら手に取ってみたら、な・ん・と! 弦のテンションはグニャグニャに柔らかいのです。
ヴィブラートもチョーキングも表情豊かにストレスなく表現してくれます。
これほど弾き易いベースが、もしも40年前に若かりしティム・ボガート先生の手に渡っていたら・・・。考えただけでもソラ恐ろしいことになります。(笑)
テンションが柔らかい弦楽器というと、“張りの無い音”をイメージしますが、どっこい音の芯はギンギン。(←表現が古いな) このベースのいちばん凄いトコは、このテンション・バランスから得られる弾き易さと、相反する力強いサウンドを両立している点なんですけど・・・う~ん、文章ではなかなか伝えにくいですね・・・。
優しさに惹かれて結婚したらシッカリ者だった・・・。違うな。(笑)
さて。エレキベースですので、エレキ的スペックを見ていきましょう。
ピックアップはティム・ボガート先生と同じ黒いプレベ・タイプです。
ブリッジ側にジャズベ・タイプが増設されていますが、これはティム・ボガート先生のプレベのブリッジ側に増設されていたフィンガーレスト(指を置くプラスチックの突起)のイメージを踏襲しています。
ティム・ボガート先生が、何故、この部分にフィンガーレストを増設したのか? それはハードロックベース・ファンにとっては20世紀から現代まで脈々と続く謎なのです。こんな所に指は置かないし、ただのプラスチックのカタマリですので音を拾うワケでもないし。それこそ、昔は「あの中に超小型ピックアップが内臓されていて、だからあんな凄まじい音が出るんだ!」なんていうデマがマコトシヤカに飛び交ったモンですが、情報化社会の現代ではそういうデマ(楽しい憶測という)さえも否定され、行き着いた先は「永遠の謎」。
ちなみに。90年代になって御本人がインタビューに答えていますので参考までに引用します。(そういうインタビュー記事が90年代に雑誌に載ったということは、我々の他にも30余年もの間、疑問に思っていた人がいたということでもあります。)
その記事によれば、
「弾きながら少しずつヴォリュームを下げていく曲でピッキングの強弱コントロールがやりやすいんで付けた。」
と、語られています。
がっ。
そんなのねえっ。誰もが気付いてますよねえっ。アキラカにおかしい!
だって、静かな曲でも音量を下げてないじゃん。(笑)
トイウことは、何か別の、今となっては「恥ずかしくて言えない目的」のために取り付けたと考えるのがスジです。ふざけて付けた。とか、特注ピックアップが付いているように見せてミエ張りたかった。とか。(笑)
そして、その答えが判明する(降臨ともいう)“時”は、あるとき突然訪れたのでした。
「鳴瀬さぁん、この TIMチョ Model は、なんでジャズベのピックアップなんですか? ティム・ボガートが付けているのはフィンガーレストなんで、サウンド的にはプレベPUだけでいいんじゃないですか?」
「わかってないなぁ。ここに突起物がないと、弦を押し付けてプキ!プキ!プキプキ!って出来ないだろ。ティムの必殺技だぞ。」
「え? そのためにフィンガーレストが付いているってコトですか?」
「アレはそれしか使い道ないだろ。で、どうせならピックアップにしとけばいろいろ役に立つし・・・」
「えええー!」
「おい、コラまだ説明の途中・・・」
「そそそそーなんだ!遂に謎が解けた!今や誰もプキプキってしないし、つまり誰もプキプキに必殺技の価値を感じてくれなんで、恥ずかしくって言えないんだ!」
「コラ。ナニ言ってんだ。プキプキはカッコイイだろーが!」
「もちろんです!そして、そう断言される鳴瀬さんがカッコイイです!」
「おいおい、やめろよ~、ティムチョって呼んでもいいんだぞ。えへ。」
(世田谷区内、某デニーズにて)
アレ? だいぶ逸れたな。エレキの話から。(笑)
とゆーワケで、この TIMチョModel のピックアップはこのようにレイアウトされているのです。
プキプキも出来ますが、もちろん配線も、してあります。(笑) 2ツのピックアップをコントロールするツマミはこうなっています。
ティム・ボガート先生と同じシルバーのプレベ・タイプ・ツマミです。
ネック側のツマミがマスター・ヴォリューム。真ん中のツマミは、2ツのピックアップのバランサーです。センター・クリック付きで、真ん中にすると両方が均一、ネック側に絞るとプレベ、ブリッジ側に絞るとジャズベのピックアップが出力される構造になっています。
ブリッジ側のツマミは2連(2段)になっていて、外側下段が低音調整、内側上段が高音調整用。
つ・ま・り、このベースは、電池駆動のアクティブ回路内臓なのです。
で。さらに。気になる小さなスイッチがありますね。
ティム・ボガート先生が世界中の価値観を変えてしまった、あの、長尺の歪んだベース・ソロ。あのスタイルを再現すべく、このベースには、Overdrive/Distortion 回路も内臓されているのです。
このミニスイッチを一段倒すと出力は倍増し、一気にアンプを歪ませることができる“Overdrive”ポジションになります。
ノーマルはこう。
Overdrive を ON にすると、こう。
そしてさらに。このようにスイッチを二段倒すと・・・
なんと、“ディストーション” です。
普段は温厚な鳴瀬さんが破壊神となって全てを踏み潰したくなった時にだけONにする装置です。
大雑把な説明になりますが、歪ませるエフェクト名称(ペダルだったり、内臓回路だったり)を、歪み具合で並べると、Overdrive < Distortion という順になります。
ティム・ボガート先生が地球の歴史を変えようと大活躍されていた60年代末~70年代初期には、今では当たり前のPAシステム(コンサート会場の音響設備)はまだまだ発達していませんでしたから、巨大なスタジアムなどで演奏するとなれば、おのずと先ずはステージ上に置かれたアンプから爆音を出さなければ客席に音が届かなかったワケです。そしてフルボリュームにセットされたアンプにかかる負荷は必然的に楽器のサウンドを歪ませることになります。
Jimi Hendrix や、Eric Clapton らのロックギターの先駆者が、その歪んだサウンドを昇華させて美しいギターサウンドを世界に示したように、エレキベースにおいてもサウンドが歪むということに美学を求めた先駆者のひとりこそがティム・ボガート先生なワケです。
そしていつしか世間では、先生をこう呼ぶようになります。
ディストーション・ベーシスト、ティム・ボガート。
誰もジミヘンやクラプトンをディストーション・ギタリストとは呼びませんし、ディストーション・キーボーディストもいなければ、ディストーション・ドラマーもヴォーカリストもいません。
ディストーションの“冠”を持つ、唯一無二の男。そのスタイルを持って、いかに強烈なインパクトを世界に示したかは、その名が証明しているワケです。
そのサウンドに魅せられて今日に至り、そのサウンドを求めて創られたのが、この TIMチョModel です。なので、Distortion なのです。
が、しかし。
スタジアムのようにオープンエアではない場所でこのDistortionをカケ流しにしてしまうと、弾いている自分までもがヤケドしてしまうのは計算外だったカモしれません。(笑) 浸った時間だけ確実に寿命を削り取られてしまうという効能効果を持ちますので、できれば長時間の使用は健康のためにも控えてもらいたいと個人的には思っています。 なのにっ、気が付くと。「もっと!もっとやってください!」と叫んでしまう、(笑)
まっこと悪魔のようなスイッチです。
これは内臓エフェクトを解説した付属の説明書です。この TIMチョModel は、第一号機であるために、付属説明書には、そのあたりの使用上の注意が記載されていません。恐らくは今後の臨床データを踏まえ、適正な注意喚起がされることでしょう。
Overdrive/Distortion 回路はボディの裏に埋め込んであります。
Overdrive や Distortion の音質/出力の調整はボディ裏側の白い蓋に開いた穴からドライバーを突っ込んで行います。
弦楽器としての見事な仕上がりに加え、このエレキな装備の数々。
この素晴らしいベースの、すべてが。
ハードロックベースの頂点たるティム・ボガート・スタイルを再現し、伝承し、継承するためにあります。
このベース。まだティム・ボガート・ブームに火が点いていないコレ書いている時点では、どこの楽器屋さんにでも並んでいるシロモノではありません。(ティムの時代は再び来ると信じてますけどね!)
駄文にて長々と書きましたが、このベースがどんな音なのかを知るには、TIMチョ&宴ROCKS のライヴ会場へ足を運ぶ以外にありません。サスレバ、百読は一聴にシカズ です。
特別な楽器だけの持つ神通力。アノ時代の圧倒的なハードロックサウンド。ティム・ボガートを研究しつくした鳴瀬喜博氏が、“ティム・ボガート愛”を込めて演奏する名曲の数々を是非体感されてください。
きっと、ティムが好きになる。(笑)
宴ROCKSの、ライヴ会場でお会いしましょう。
Written by Eiji Farner