FARFISA VIP345
written by Eiji Farner
知る人ぞ知る、ファルフィッサのオルガンです。
ファルフィッサといえば、真っ先に思いつくのはピンクフロイドでしょう。そして「貴方を愛し続けて」以降、ハモンドオルガンを導入する以前の、初期レッドツェッペリンもライブではファルフィッサを使っていました。
誰もが知っている最も有名な映像は、映画Woodstock の中でスライ&ザ・ファミリーストーンのスライが歌い踊りながら弾いている、あのオルガンでしょう。あれもファルフィッサ(Professional というモデル)なのです。
リックライト、ジョンポールジョーンズ、スライ。。。
ロック黎明期の巨人達が愛用していたファルフィッサですが、、、
悲しいまでに、あまりにも知られていませんっ。(爆!)
サテ。そのファルフィッサがグランドファンクに関係あるのか。
という声が聞こえてきそうなので、それを説明するためには、前置きから。
― Mean Mysteries ―
Grand Funk Railroad のキーボードサウンドには、
ふたつの“巨大な謎”が存在します。
ひとつは、名盤「LIVE ALBUM」に収録されているMean Mistreater の
暗〜いエレピの音です。
Fender Rhodesを弾いている写真があるにも関わらず、
多くのミュージシャンが
「あの音は、ぜったいにウィリッツァーだろ。」というくらい、
誰が聴いてもウィリッツァーっぽい音なのに、
実はFender Rhodes を使っているという。
これは日本一有名なギタリスト氏とボクが初対面の時に、一番最初に交わした会話でもありますし、当サイトを応援してくださっているハードロックキーボーディスト厚見玲衣氏とボクが出会うキッカケにもなった“巨大な謎”でした。
GFRが使ってたWESTのアンプに、
アタックが柔らかいフエルト製ハンマー時代の
初期型Fender Rhodes をつないで、
更にTONEを絞ってキラビヤカな響きをカットしたら、
もしかしたらあの暗〜い、ウィリッツァーのような
エレピサウンドが作れるのかもしれない。
この、厚見さんが永年温めていた仮説を立証する為に、
当サイトを訪問してくださったことが
厚見さんとの出会いでした。
で、買っちゃった Fender Rhodes
を、WESTアンプにつないだら。。。
謎が解け、アノ音が!
それ以来、厚見さん所有のハモンドオルガンやメロトロン、クラビネットやウィリッツアーという、クレイグフロストが使っていた「4大神器」の“本物”(しかも極上コンディション)を当サイトで取材させて頂き、公開させて頂けたことで一挙にGFRキーボードサウンドの謎が解読されたのです。
がっ!実は。
もうひとつ、“巨大な謎”が存在しているのです。
これらの楽器をどう組み合わせても出せない、
謎のキーボードサウンドが存在するのです。
それは誰もが知っている、We’re an American Bandの、
サビの「ピッピッピッピッ」っていうアレです。
ブラックリコリスのキーボードソロ終盤の、
「ピピィー、ピーピー」っていう、コンボオルガンっぽい音。
同じアルバムに収録されている2曲なので、スタジオに“謎のコンボオルガン”を持ち込んだのだろう。と考えるのが普通ですが、問題はライヴ盤Caught in the act に収録されているブラックリコリスです。
ここでも“謎のコンボオルガンサウンド”が炸裂している点です。
現存するステージ写真や動画のどこにも、そんなコンボオルガンは写ってないのです。
有名なWe’re an American Band のPV映像にも映っていません。
いったいどーゆー事なんだ。。。。???
余談ですが、このPV映像には、ウィリッツァー導入前にクレイグ氏が
愛用していた HORNER Pianet N型 が写っています。
それを見て、
「もしかしたら謎のコンボオルガンサウンドは、このN型に
秘密があるのかもしれない!」
と、ボクが仮説を立てたら、厚見さんが発掘して買っちゃったのは
当サイトでは有名なエピソードです。
タシカニ、あの音って、ちょっとエレピっぽいアタック感があります
でしょ。
実際のPianet N型は、もうぜんぜん違う音だったけど。(すみません〜っ)
おっと、逸れた。
で。
この“謎のコンボオルガンサウンド”だけは、巨大な解読できない壁のまま、
出番の無いPianet N型と共に放置され、今日まで来たのです。
サテ、ここからはわずか数時間であれよあれよと一挙に壁が崩れる、
いつもの暴走機関車マジックエピソードです。
装飾いっさいナシ。(ホント)
― ファルフィッサの奇蹟 ―
「こんどのライヴさ、選曲どうする?
せっかく2人でオルガン弾いてツインオルガンで出来るんで、
72年Phoenix Tour 映像のオープニング再現してみようよ。」
と、ボクがメールを送った相手は、このファルフィッサのオーナーとなったERIさん。
で、
資料として音源(Bootleg)を渡したら、「この音源、凄い!」ってメールが届いたのです。
「おっと、最近聴いてなかったし、こりゃボクも隅々まで聴きまくっておかなきゃ」と、Walkmanで聞きながら朝、家を出たのですが。。。家を出て、100メートルくらい歩いたトコで、立ち止まり!
「ななななんだ?このオルガン、
音程がウィ〜ンってベンドアップして上がるぞ!
そんなことハモンドじゃできないぞ!」
タマタマ偶然、かかってた曲が、なぜか10曲目くらいに収録されてる名曲「Lonliness」。
アタマから聴くつもりが、操作を間違えたらしく、「ま。いっか。朝からロンリネス聴くのも。」みたいなカンジで聴いていたら、曲の後半で嵐のように盛り上がるアノ部分で、ファンファーレのように音程が上がっていく有名なアレをオルガンでやっているのです!
実は、ここだけはmini moog とか、何かシンセサイザーを使っているモンだと勝手に思っていました。
つい数ヶ月前、厚見さんが行った「ムーンダンサー&タキオン再結成ライヴ」の取材で知ったKORG 800DVというシンセが、このベンドアップを“鍵盤を押せば自動的に、狙った音程まで、狙った音の長さで”出来るという事を知ったのですが。。。
ぬわんと!Lonliness で、それをやっているんです!
あきらかに、狙った音程まで、狙った音の長さで
ベンドアップしているのです!
えっ? KORG 800DVなのっ???って、時代考証が合いません。
それにどう聴いてもオルガンなのです。
で。ハタと思い出したのが、BONZO MANIAC のDaisukeさんチで聴かせてもらった初期ツェッペリンのライヴBootleg音源です。
ZEPファンで知らない人は居ない名演、“On Blueberry Hill” に収録されている「Thank you」の前のオルガンソロで、JPジョーンズが「ウィ〜ン、ウィ〜ン」を連発していたのです。もちろんそれに気づいたのは厚見さんでした。
「なんでオルガンがベンドアップするんだ!?
そんなことハモンドでは出来ないよ。
このチープなオルガンの音はファルフィッサかも!
ファルフィッサには、そんな機能が付いているのか!」
で、その場から、日本一JPジョーンズに詳しいMR,JIMMY のベーシスト
Otsukaさんに電話です。
「やはりっ。ファルフィッサには、そういう機能が付いているんですか!
やはりJPジョーンズはファルフィッサを使っていたんですか!」
大興奮されている厚見さんの傍で、その凄さ全容を理解できず、ポカンとしていたボク(笑)だったのですが。
コトがLonlinessのウィ〜ンとなると、これはもう興奮を抑えきれませんっ!
ああ、あのとき、なんでもっと一緒に興奮しなかったんだ!という反省(笑)と、最近知った知識のKORG 800DVと、あの日のツェッペリン音源の「ウィ〜ン」が、一斉に結びついて、閃いたのです!
クレイグフロスト氏は、ライヴでLonliness 演るときに、
ファルフィッサを使っている!
(に、チガイナイ!)
すぐさま、ERIさんにメールで報告です。
で、送信ボタンを押した瞬間、またまた頭の中にピカって!
前述の“GFRの2大謎”、アメリカンバンドのピッピッピって、
あれもファルフィッサなんじゃなかろーか。
もう、慌てて72年Phoenix Tour のBootleg を一曲ずつチェックです!
そ・し・た・ら!
ぬわんと、Rock’n Roll Soul も、In To The Sun も、
チープなオルガンサウンドで弾いているのです。
なんだこれ!ハモンドじゃねえ!!!!
今まで気づかなかった!!!!
ととと。となると。
72年Phoenix Tourの映像には、やっぱりそれらしきオルガンは
どこにも置いてないし、
いったいどこに隠してあるんだ?????
と、考え始めたら、ERIさんからメール着信。
「知ってるかもしれないけど、ファルフィッサ売ってるよ。
試奏してる映像(音)がNetに上がっているよ。」
え゛え゛―っ!!!
で。 慌ててカバンからイヤホンを取り出し、iPhoneにつないで
見て(聴いて)みたら。。。
たった今まで聴いていたIn To The Sun (’72年Bootleg)のオルガンの音と
ドンズバ一緒!
そのデモ映像では、ウィ〜ンもやっているし、
ぬぬぬぬわんと、
内蔵のエレピらしき音源を混ぜて、
まるでWe’re An American Bandのような、
「ピッピッピッピッ」もやっているのです!
キタ―――――――ッ!
で。その動画に映っているファルフィッサの姿を見て、またまたビックリ!
ボクにとってのファルフィッサって、オモチャっぽいPOPな外観(スライ&ザ・ファミリーストーンの映像のアレ)のイメージだったのが、その売られているVIP345は、メカニカルなシルバーパネルに、カラフルなスイッチが散りばめられており。。。
って、これに似てるヤツ、
クレイグフロスト氏の機材で、見た事あるぞ!
これ。
ハモンドB-3を大改造モディファイし、
何かを組み込み、一体化させているこの部分が、
何の為のどんな音がするのか、誰も知りません。
似てる。。。と思いません?
カラフルな操作ボタンといい、タタズマイといい。
あくまでも仮説ですが、この謎のカスタマイズ部分(上に乗ってるクラビネットと同じくらい大きい!)の中に、ファルフィッサの音源が入っていたとして。それをハモンドの鍵盤で鳴らせるように改造してあったとしたら。
ちなみに、厚見さんのハモンドの下側の鍵盤は、スイッチを切り替えれば外部音源をコントロールできるMIDI鍵盤として使えるように改造してあるのは有名です。
つまり、そういう改造は可能なのです。
もしそうであれば、すべての“謎”のツジツマが合うのです。
ここまで、朝、ロンリネスで立ち止まってから1時間。目的地に着いちゃったんで、ここまでの推理をテミジカに文章にして、ERIさんにメール送信。
「このファルフィッサ。72年のGFRサウンドの要だし、
唯一アメリカンバンドを再現できる、
まさにオルガンのメッセンジャーだよ!!!!
ほ。ほ。ほ。欲しいぃ〜!」
って添えて。(笑)
で。メールを送った数時間後。
ERIさんからメール着信。。。。
「買っちゃった!」(爆)
でたっ!女・暴走機関士!
“巨大なる謎”の、答えがファルフィッサ!って気づいてから、
ここまでわずか半日。
で、その3日後には、このよーに。
この、Grand Funk Maniac の元へと届いたのです!
かっちょいいケース!
あまりにも展開が目まぐるしくて、あれよあれよといろんな事が
つながっていく、このカンジ。
最近だと NORTH MANIAC でも起きたし、これまでにも何度も起きた
暴走機関車現象。
しかも、このファルフィッサをメンテナンスされた方は厚見さんのお知合いのお知り合いだったりと、これまた次々と輪は広がり。
40年前のコンボオルガンが、メンテナンスの行き届いた完動品として、この日本で、しかも、ボクとERIさんとが出会って一緒にグランドファンクのトリビュートバンドを始めたこのタイミングで手に入ったというナニモカモが。
またしてもハードロックの神様が虹の上でジャンプして大笑いしているとしか思えないのです。
そのファルフィッサのメンテナンス日記が、
コチラのブログに上がっています。
http://organ1969.exblog.jp/i19/
これは本当に凄いです。必見です!
素晴らしい作業の記録を是非ご覧ください。
ファルフィッサがなければ、
グランドファンクのキーボード・サウンドを象徴する
代表曲 We’re An American Band は再現できない し、
72年のライヴ音源は再現できないし、
ブラックリコリスもロンリネスも再現できないのです!
メッセンジャーに内蔵されているFUZZサウンドが、
要所要所で強烈なインパクトを残すことで、
グランドファンクといえばメッセンジャーという印象が強いように、
要所要所で強烈なインパクトを残すファルフィッサは、
まさにオルガンのメッセンジャーなのです。
チープさといい、珍しさといい、サウンドの個性といい、
まさに!WESTやメッセンジャーと通ずるモノを感じるのは
ボクだけではないハズです。
おっと。ここまで書いておいて、ゲせない疑問も残ります。
なぜ、ハモンドに組み込んでまで、クレイグ氏は
コンボオルガンサウンドにこだわるのか。
どう考えても。。。普通にハモンドの上に置けばええじゃないか!って。得意の妄想するに、オルガンの上にオルガンを置く画がカッコ悪いと思ったのかもしれません。
グリスを多用するクレイグフロスト氏が、ファルフィッサの鍵盤の耐久性やタッチに不満があったのかもしれません。
彼らの地元(ミシガン州)といえばモータウンサウンドの発祥の地であり、GFRのメンバー全員がモータウンミュージックからの多大な影響を口にしています。
そのモータウンサウンドらしさの象徴がクレイグ氏にとっては、コンボオルガンサウンドだったのかもしれません。
うーん、なんでだろう。。。よっぽど好きなんだろーな。
誰も使っていないメッセンジャーを使い、ベースを歪ませ、世界中に今もなお類を見ない唯一無二のサウンドスタイルを構築したGFRに於いて、Fender Rhodesを誰もやらない暗〜いサウンドに変えたように、誰もハードロックで使わないファルフィッサの突き抜けるような高音を、これぞ唯一無二の個性的オルガンサウンドとして、個性のカタマリのようなトリオ編成バンドに迎え入れた。“モータウンのような”サウンドを据えて、グランドファンクはこの時期に、次なる唯一無二を求めていたんじゃないだろうか。
とかね。
トリオのグランドファンクが、レコーディングとツアーにキーボーディストを迎え入れるにあたり、旧友だったクレイグ氏にゲスト参加してもらい、そのまま正式メンバーになった。ってアチコチの書物に書いてあり、至極自然な話ではあるのですが、実はこれもボクには手放しではゲせないのです。
前述のFender Rhodesにしても、ハモンドオルガンを弾いても強烈な個性を誇るマーク・ファーナー尊師のキーボーディストとしての素晴らしさを知れば知るほどに、キーボーディストを求める必要などないからです。
クレイグ氏のお気に入りサウンド(ハモンドに組み込まれた必殺兵器)をここまで全面に据えた時点で、メンバーが「このファルフィッササウンド」を気に入っていたハズですし、ツアー中に4人編成としての強烈な個性の組み合わさったバンドサウンドを確立できたので、正式メンバーに迎え入れることになった。
とかね。
おっと、肝心のファルフィッサVIP345の解説が抜けていましたっ。
いわゆるコンボオルガンの、ピーピー甲高い音です
が、有名なVOXのコンボオルガンの音より豪華なカンジがします。
(写真は大親友のMark Powerさん所有のVOX)
ハモンドのハーモニックドローバーと同じような機能を持つ
このカラフルなドローバーでサウンド加工していくことで、
いわゆる音を重ねて音色を作るオルガンらしい深みが存在しています。
それでいて、音が太い!
この「音の太さ」が、甲高いコンボオルガンのピーピー音までも、
存在感のある芯の太いサウンドになっていて、
前述の豪華なカンジとなっています。
左手で弾くベースラインだけを独立してベースアンプに繋ぐことができる
ように、
鍵盤の低音部はスプリットされており、
出力端子までが別に独立しています。
低音の太さは、今時の
レンジを広く取り、
耳障りは良いが“本物のLOW”が出ないエレキベースなど
裸足で逃げ出す音のぶっ太さです。
で。どのくらい太いかというと、
ボクがライヴで使っている KORG BX-3 は、内蔵されている音色もいっぱいあって、
音質調整もいろいろ出来るので、それらの中からやりすぎなくらい
目一杯太い音に調整しているんですけど、
そのBX-3よりも、
レスリー効果無しでピーピー言ってるこのコンボオルガンのほーが
音の芯が太い!
ラウドなハードロックでコンボオルガンを使っているバンドってほとんど無いんで
知らなかったんですが、爆音の中でも前に出る
アナログコンボオルガンサウンドの素晴らしさにビックリです!
そして、お待ちかねの2大機能。
Lonlinessで、ベンドアップするのは、コレ。
その名も、SYNTHESLALOM。
スキーヤーが斜面を滑り下り、ジャンプしようとしているイラストが
サウンドの特色を見事に表現しています。
しかも、なんかカワイイ。(笑)
そ・し・て!
American Band やブラックリコリスの、アノ音は、コレ。
ぬわんと、ハープシコード。
↓
このスイッチをONにすると、ハープシコード風の音が出るんだけど、
その音をオルガンに混ぜることができるのです。
それこそが、あの、ハープシコードみたいな
コンボオルガンサウンド、「ピッピッピッピッ」だったのです!
そういやあ、ハープシコードっぽい!
でしょでしょ。
もうね、世界中のグランドファンク好きな方の目から、
ボロボロとウロコが落ちるくらい、ファルフィッサであり、
ハープシコード+コンボオルガンだったのであります!
つ・い・に、解明できました!
(の、ハズ!)
もしボクがクレイグなら。。。
こりゃ、ハモンドに組み込んででも、手放したくない!
って思いますね!(笑)
本物の楽器、本物の音楽が持つ特別な“なにか”は、
この世界に、ほんとうに存在します。
Written by Eiji Farner
≪ 追記 ≫
サテ。このファルフィッサ。
満を持してのお披露目となる、初ライヴはコチラです。
ヴィンテージオルガン・ファンの方々、必見です!
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